EVER GREEN

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第四章「夏の日に(前編)」

No,13 地球へ

 母さん、母さん!
「ひき逃げですって。怖いわよねぇ」
 なんで動かないの? なんで!?
「このたびは……ご愁傷様です」
 ……どういうこと?
「もともと病弱な人だったからねぇ」
「お子さんもまだ小さいのに。お父様も大変ね」
 みんな何を言ってるの?
「どちらにしてもああなる運命だったのかしら」
 運命? 運命ってなんだよ。母さんはああなるべきだったって言うの!?
「昇……っ!」
 父さんまで、なんで泣いてるの? 泣いたら……っ!


「それが、あなたの心?」
 え……
 真っ白な雪景色。それ以外は何も見えない。ここって、もしかして――
「時の城です。また会いましたね」
 振り返ると、そこには長い金髪に青い目をした女性――シルビアがいた。
 ……アンタは、まだここにいるの?
「ええ。わたくしはここにしかいられないから」
 まだそんなこと言ってんのかよ!
「あなたは怒ってばかりね。わたくしのことが嫌い?」
 ……別に、嫌いってわけじゃない。自分が犠牲になればそれでいいって考え方が嫌いなんだ。取り残された人の気持ちって考えたことある?
「優しい子ね」
 やめろよ。これじゃこの前の繰り返しだ。
「昇、お願い。あの子達を助けてあげて。あの子を時の鎖から開放してあげて」
 それはアンタのことだろ? まずは自分をどうにかしろよ。
「わたくしのことはいいの。――をお願いね」
 だから――
『わかった。そのかわり、アンタも勇気を持つんだ。運命って名前の鎖を断ち切る勇気を』
 あれ、これって……

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「昇くん、昇くん!」
 強引に肩を揺さぶられ我にかえる。
「昇くん!」
「椎……名?」
 目の前には椎名がいた。
 その距離わずか三センチ。いつもなら三メートルくらい後ずさるところだけど、頭が痛くてそれどころじゃない。
「ここって、オレの部屋?」
「うん」
「……って、ことは地球だよな。あーあ。あれだけ大げさにしといて失敗かー」
 そのままずるずると壁にもたれかかる。
「失敗?」
「昨日言ったろ? 時空転移(じくうてんい)。諸羽(もろは)が手伝ってくれたのはいいけどちょっとトラブってさー」
 よろよろとベッドから起き上がる。そーだよな。そんなに簡単にいくわけがないって。
「昇くん……それ、成功してる」
「成功?」
「だって――」
「あれ、大沢起きたんだ」
 ドアを開け、諸羽が入ってくる。
「ボクが一番はじめに気がついたんだ。まりいちゃんにはちゃんと事情説明しといたから」
 そう言って感謝しろとばかりに胸をはる。
「百聞は一見にしかず。まずは下に降りよ。話はそれから」
「いーけど……」
 しぶしぶ自分の部屋から一階のリビングへ移動する。
「それで? 成功ってどーいうことなんだ?」
「あれあれ」
「あれ?」
 促されるまま諸羽の指差す方向を見ると――
「なっ……!」
 術は、時空転移は確かに成功していた。
 しかも、空都(クート)の人間を含むというおまけつきで。
「全員……嘘だろ……」
 呆然と。かすれる声でただ呆然とつぶやく。
「私も驚いた。昨日はシェーラくんだけだって聞いてたから。諸羽(もろは)ちゃんの説明がなかったら混乱してたと思う。でも七人も一度に時空転移するなんてすごい……」
「七人?」
 改めて周りを見る。
 この部屋にいる人間(椎名を除く)は、オレ、ショウ、シェリア、アルベルト、シェーラ、諸羽。残る一人は――
「……まずはみんなを起こすのが先だよな」
「そうだよね」
 三人で寝ている連中を起こしにかかる。
「マリィ? どうしてここに?」
「ノボル、ここって――」
 それぞれ予想通りの反応が返ってくる。
「ここは地球。空都(クート)とは似ていて明らかに違う世界。その中の日本って国の一つ、榊(さかき)町。他に質問は?」
 いつかのショウのセリフをまねて現場説明をする。
「どうしてって聞きたいけど、この前のこともあるから深く追求はできないわね」
「ここがお前の故郷なのか……」
 お嬢と公女様が物珍しそうにあたりを見回す。
「まさか、私まで地の惑星を訪れることになるとは思いもしませんでした」
 あの極悪人ですら驚いた表情をしている。当然と言えば当然だけど、異世界ワープってそうめったにできる代物じゃなかったんだな。
「少しはオレの苦労がわかった……ん?」
(ねぇ。アタシ達、他の場所に移った方がいいんじゃない?)
 シェリアが小声で服の袖をひっぱる。
「なんで? オレの家だから遠慮なんかしなくていいって」
(そうじゃなくて……)
 シェリアの指した方向を見ると、そこにはショウと椎名がいた。

「シーナ?」
「うん……」
 それっきり。会話はなかなか進まない。
「何か言って。話しづらいよ」
「……よう」
「それだけ?」
「……久しぶり。元気だった?」
「うん。ショウも元気そうだね」
「まあな」
 それっきり。ショウはそっぽを向いたまま、なかなか顔をあわせようとしない。
「下向かないの。こっち向く!」
 ショウの顔を両手ではさみ、半ば強引に自分の方へ向けさせた。
『……っ。あははは!』
 しばしの沈黙の後、二人は声をあげて笑った。
「なんかあの時の逆だな」
「ほんとだね……」

「へー。あの二人ってああいう仲なんだ」
 諸羽(もろは)が興味津々といった表情でつぶやく。
「お邪魔しちゃ悪いわよね」
「……オレの部屋行くか」
「そうね」
 二人の再会を邪魔する無粋な奴はここにはいない。顔を見合わせてうなずくと音を立てないように部屋を後にした。

 少しだけ胸が痛かったのには気づかないふりをした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ここがノボルの部屋なのね」
「殺風景だな」
「一人部屋にしてはいいんじゃないですか?」
「ボク男子の部屋に入ったのってはじめて」
 誰が人の部屋の討論会しろって言った。
「お前らって順応性高すぎるよな」
「だって霧海(ムカイ)に行ってきたばかりだし。ノボルほどじゃないわよ」
「そーですか」
 たくさんのことが起こりすぎて怒る気にもならない。
「まずはこいつをどうにかしないとな」
「目を覚ましたとたんにわたくしを殺す……だろうな」
「それは十分ありえますね。逃げ出す可能性だってあります」
 オレ達の目のにいるのは、未だに気を失っている暗殺者。とりあえず武器らしきものは全て取り外しはしたものの、一体どーすりゃいいものか。
「若い……わよね。もっと年とった人を想像してた」
「オレも」
 銀色の短い髪。目の前にいる男はどう見てもオレと同じくらいにしか見えない。
「じゃあ逃げられないように簡単な封印でもしておきましょうか」
「封印?」
「あなたは空都(クート)を訪れた時に能力を得ましたよね。その逆ですよ」
 そう言った極悪人の顔は、明らかに悪巧みをしている時のそれそのものだった。

 キンッ!
「物騒な起こし方するね。お姫様」
 さすが暗殺者。首にあてられた刃物にも全く動じてない。
「まずはあなたの名前を聞かせてもらいましょうか」
「言っておくが貴様に黙秘権はないからな」
 三日月刀をつきつけたまま、シェーラが鋭く言い放つ。
「そんな怖い顔しなくても言うよ。ぼくの名前は――」
「セイル――だったよな」
 質問に答えたのは意外にもショウだった。
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