EVER GREEN

BACK | NEXT | TOP

第二章「わがままお嬢のお守り役」

No,13 エピローグ

「すげー。昇、81じゃん」
「大沢君って頭いいんだー」
「……どーも」
 五月二十九日。中間テストは無事に終わり、一番初めにあった数学のテストが返ってきた。
 81は決して悪い点数じゃない。けど――
「お前、一体どーいう勉強したんだ?」
「睡眠学習」
「んなわけねーだろ。頭のいい奴は言うことが違うねぇ」
 隣ではクラスメートの坂井が自分の答案を片手にこっちにからんでくる。
「平均は70、最高点は92だ。初めてのテストにしては上出来だったな。じゃあ、正解言っていくぞー」
 先生の声がやけに遠くに聞こえる。
「この後が怖い……」
 これから先おこるであろう悲劇を予想しつつ、テストを机の中にしまった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「よかったじゃないですか。いい点がとれて」
「よくないっ!」
 オレの声が草原にこだまする。
「よかったのは数学だけ! 他の科目なんか、ひどすぎて話にならなかったんだぞ!」
 次の日から残りのテストが次々と返されていった。
 英語60、現文70、古文65、社会63、生物……52。空都(クート)で勉強してなかった他の科目――数学以外は全て全滅。あまりにもひどすぎる。
「あなたの日ごろの行いが悪いからでしょう?」
「アンタが勉強する暇をくれなかったからだろーが!」
「それを責任転嫁と言うんです」
 この男は……!
「くだらないことで何を騒いでいる」
「お前なー……」
 そう言いかけて、止まる。
「へー。男装したんだ」
「これが正装だ!」
 顔を赤くしてお嬢が――シェーラがどなる。どうやらオカマ呼ばわりされたことを気にしていたらしい。
「アタシが買ってあげたの。結構いけてるでしょ?」
 後からやってきたシェリアが満足げに胸をはる。
 襟付きのシャツの重ね着にスラックスと動きやすそうなブーツ。首にはクリスタルのペンダント。
 けど、やっぱこいつ女顔だな。まあ前よかは男に見えるようになったけど。
「はじめっからその格好すればよかったのよ」
「持ち合わせがなかった」
 二人はいつの間にか打ち解けていた。正確には、シェーラが『彼女』ではなく『彼』と判明したことで言いたいことを堂々と口にすることができるようになったらしい。今では、オレと同様よく言いあいをしている。
「何、コレ?」
 白い紙切れが明るい茶色の目に留まる。
「オレの国のテスト」
「へーっ。これって数学よね? アタシが習ったのと似てる」
「そーなの? だったら今度教えてよ」
「そのくらい人に頼らずに自分で考えたらどうだ」
 また、こいつは……
「なんなら、お前もやってみる?」
 そう言ってテストを突きつける。
「わからない」
 ひとしきり考えた後、お嬢がそう言って突き返してきた。
「だろ? だったら黙って……」
「文字が読めない。一体何と書かれてあるのだ?」
 へ?
「あ、そーか。コレ日本語だった」
「ニホンゴ?」
「オレの母国語」
 そーいえば、オレが今話しているのって日本語だよな。なんでこいつらに通用してんだろ。今度リザに会った時にでも聞いてみるか。
「変な文字だな」
 自分でつき返した答案をひったくり、まじまじと見つめている。
「ノボル、この『ニホンゴ』とやらをわたくしに教えろ」
「やだ」
 即答。 なんでオレがそんな面倒なことしなきゃならないんだ。
「わたくしが頭を下げているのにその態度はなんだ」
 形のいい眉がつりあがり、腰に携えた三日月刀を抜く(これもシェリアが新しく買ってきたらしい)。
「それが人にものを頼む態度か!」
「ならば、文字を教わる代わりに、わたくしが直々に剣の稽古をつけてやろう。それで文句はあるまい?」
「なんでお前に稽古なんてつけてもらわなきゃ――」
「お前が言ったではないか。交換条件だ」
「そーいうのは『交換条件』じゃなくって『押し付け』って言うんだ――」
 だいたい、オレに突きつけられたこの物騒な物はなんだよ!
「いいですね。その案にのりましょう」
「って、何勝手に承諾してんだよ!」
「後々役にたちそうですし。そうですね。空都の言語も教えて差し上げましょう。出血大サービスです。おつりはいりませんよ?」
 そうエセ笑顔で笑いかける。
「んなサービスいらんわ!」
 むしろ、のしつけて返してやる! これ以上話をややこしくしたくはない。
「明日からさっそく頼むぞ。善は急げと言うしな」
 三日月刀をようやく腰に収めシェーラが言った。
「人の話を聞けーー!」
 どいつもこいつもオレの意見は無視かよ!
「ノボル、大変だろうけど頑張ってね」
 肩に置かれたシェリアの手が妙に重く感じられた。

 かくしてオレは、普通の勉強に加えて日本語教育、ひいては戦闘訓練というおまけつきの睡眠をとらなければならなくなった。

 ……誰か、オレに平穏無事な睡眠時間をください。
BACK | NEXT | TOP

このページにしおりを挟む

ヒトコト感想、誤字報告フォーム
送信後は「戻る」で元のページにもどります。リンク漏れの報告もぜひお願いします。
お名前 メールアドレス
ひとこと。
Copyright (c) 2003-2007 Kazana Kasumi All rights reserved.