陽のあたる場所で

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  02:笑う男  

 金色の髪に青い目。間違いない。さっきの手はこいつのものだったんだ。
「余計なことしてくれたな」
 さっきの奴と同様男子をにらみつける。でもさっきと同様、目の前の奴は微動だにしない。むしろ目を細めて笑っている。
「命があっただけよかったじゃないですか。死にたかったんですか?」
「さっきからそう言ってる!」
 なんなんだこいつらは。あたしの言ってることがわからないわけじゃないだろ? なんでそんなに平然としていられるんだ。
「それはよかった」
「?」
「人の嫌がることをするのが大好きなんですよ。俺は」
 金色の髪をした男は笑いながらそう言った。
 こいつ、絶対性格悪い。人のことは言えた義理じゃないけどそう確信した。
「じゃあ最後の仕上げをしましょう」
 男があたしの方に近づいてくる。そいつが見ているのが自分の胸元だと気づいた時、慌てて毛布で体を覆い後ずさった。
「あんた、何するつもり?」
 毛布を巻きつけたまま後ずさる。
「誰も取ってくいはしませんよ。あまり動くと傷口が開きますよ?」
 男はあたしの肩に手をのせると言葉を紡ぐ。
 一体何語なんだろう。言葉を紡ぐと同時に手を当てられた部分の痛みが引いていく。
「あんたがこれを?」
 相変わらず毛布を巻きつけたまま胸元の包帯を見る。確かに痛みはさっきよりもだいぶいい。
「大丈夫。こいつは神官なんだ。こいつの腕のよさは折り紙つきだよ」
 まだ男を警戒してると思ったんだろう。藍色の髪の男が片目をつぶって言う。まあ、目の前の奴を警戒してないって言ったら嘘になるけど。
 神官? そんなの教科書か昔の本でしか見たことがない。本当に、ここは一体どこなんだ?
「傷跡は残るかもしれませんがとりあえずは終了です」
 ようやく手を離し男が言う。相変わらず顔には笑みをはりつけたままだ。
「お礼は言わないんですかと聞きたいところですが、言うだけ無駄でしょうね」
「だったら聞くな」
 確かに痛みはうすらいだけどこいつに礼を言うつもりなんか毛頭ない。むしろ憎んでいる。
「そうそう。あなたいくつですか?」
「……18」
 急に何を言い出すんだと思いつつも言われるまま答える。あたしは18歳。学校に通っていれば今頃高校三年生になる。
「年齢のわりには体つきが貧弱ですね。もう少し食べた方がいいのでは? 胸だって無きに等しいようですし」
「てめーっ、しっかり見てるんじゃねーか!」
 枕を投げつけると男は笑顔をはりつけたまま片手でそれを抱きとめた。
「それだけ動けるなら大丈夫ですね。リザ、後はお願いします」
 それだけ言うと男は部屋から出て行った。
 なんなんだ、あいつは。
「アルベルト」
「?」
「アルベルト・ハザー。それがあいつの名前さ」
 藍色の髪をした男――ルシオーラはそう言った。
「悪かったね。あいつもいつもはまともなんだけど……」
「あれがまともなの?」
 とてもじゃないが信じられない。
「違いない」
 口調とは裏腹にその表情は笑みを形どっている。
「何がおかしい」
「ごめんごめん。いや、あいつが女の子を拾ってくるなんてさー。世も末とはまさにこのことだと思ってさ。しかも『神の娘』ならなおさらだ」
「神の娘?」
 そこであたしは初めてあの話を聞くことになる。
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