世界の果てで会いましょう

第5話「戸惑い、歩き・・・」

 あれから何日経ったのだろう。俺はミルラ。今、変な人たちと旅の空。でもそれは成り行きでそうなったのであって、自分からついていったという感覚はない。じゃあなんで旅しているかと問われれば、答えられない。逆に、ともに行動している3人に聞いてみたことはある。
「どうして皆さんは旅してるんですか?」
  3人の表情は、見事に違った。紅一点で、美少女と言っていいユエさんは、恐れ多いとでもいうかのように困った表情をしていた。朝は何か苦いものをかみつぶしたような変な顔をしていたし、夜に至っては完全に表情を消していた。その異様さに目をむく俺に、
「時期が来れば分かる。」
 といったのは、朝だったのか、夜だったのか・・・・・・。とにかくはっきりしない。

 結局俺は、どうしたいんだろう?

 少年の迷いに、朝も夜も気づいていた。ただでさえ旅慣れていないミルラは遅れがちだ。列の最後尾になることも少なくない。それがさらに遅れようとしているのだから、尚更だ。
「おい、いいのか?あれ。」
 見かねたのか、同じく困った顔で朝は夜に問いかけた。ここまで分かりやすいのもどうかなと思いながら・・・。
「ほっとけば?思い出したら思い出したで面倒だろうし。」
 返ってきたのは淡泊なもの。それに朝は心底呆れた声で言う。
「お前・・・その状態でよく言えるな。」
 朝が呆れたのは、夜の淡泊な返答のことではない。夜はユエに抱きついたまま、器用に前を進んでいた。一方のユエは顔を真っ赤にして、
「よ、夜!歩きにくいからやめてくださいってば!」
 力なく抗議している。それに対して夜は、
「いやだ〜。」
 なんて甘い声で言うものだから、
「夜〜〜〜〜!!」
 とユエはますます真っ赤になって叫ぶ。そんなやりとりは何というか・・・恋人のいちゃつきようである。
「バカップルめ・・・。」
 憎々しげに、悔しげに、見せつけられる状態の朝は、夜には聞こえない音量で小さく悪態をついた。ミルラは思考の海に沈んでこのやりとりを直視せず、見せつけられているのは朝一人。同情するものがいれば、まだ我慢できたものを・・・。けれど八つ当たりという行為は、朝にとっては大人げない行動。だから、彼はそれにじっと堪えていた。

 不意にミルラは立ち止まった。感じたのは、殺気。皮肉にも長年力あるところの下っ端にいたために――よく怒鳴られたり、殴られたりすることがあるので、常に彼は顔色をうかがっていた――培われたもの。いわゆる第六感とでもいうべきものが備わっていた。もちろん、ミルラが気づく前に三人も気づいていたのだけれど・・・
「あーあ、やだね〜ぶすいな奴は。」
「「(頼むから)挑発するなよ。」」
 呆れたく調子で言い放つ夜に、奇しくも朝とミルラの声が重なった。と同時に、理解者がここにいたと認識する二人。一方のユエは顔を引き締め、辺りを警戒している。
 現れたのは、三、四人の山賊の類。下品な笑みを浮かべたそいつらの、視線の先にあるのはユエと夜。まずそういくのだろうとミルラは思った。ユエは神秘的な雰囲気をまとった蒼髪碧眼のかなりの美少女だし、夜は金髪金眼だ。夜のこの容姿はかなり珍しい。遠い昔にあった王族がそうだったといわれているが、夜がそうか定かでない。ただ珍しいというだけで乱獲される動物と同じようなことなのだ。そこまで考えて、ミルラは気分が悪くなり、顔をしかめた。とりあえず分かっているのは、銀髪のような白髪と黒目で顔も美形でも不細工でも何でもない自分と、どこか幼い面立ちをしながらも鍛え抜かれた体を持つありふれた黒髪黒眼の朝は、まず人さらいの対象にはならないんだろうということだけ。本当にどうでもいいことではあるが。
「朝、たまには暴れてきたら?」
 我に返ったミルラの耳に、夜の声が入る。どうやら夜はユエを守る担当らしい。何もしないわけにはいかないと、ミルラも前に出ようとして・・・
「ミルラ、やめた方がよいです。」
 ユエの制止によって立ち止まる。
「何で?」
「朝さんは・・・プロですから。」
 言葉とともに返ってきたのは、ユエの特上にっこり笑顔。もっぱら向けられるのは夜だけの特大のもので、ミルラはその魅力に倒れそうになる。が、無言で盛大に夜に足を踏んづけられて、すぐ痛みに悶絶した。事情を知らないユエは、不思議そうな表情をしている。
「って、そうじゃなくて!」
 痛みをこらえながら朝の方を向くと、いとも簡単に賊を倒す朝の姿。手に持つ剣は、鞘から抜いてもいない・・・。当の本人としては、いつものことなのだが。堂々と八つ当たりもできる口実を得て力が入っているのは別の話。
「ね?大丈夫でしょ?」
 その光景に唖然とするミルラに、夜はさわやかな笑みとともにいった。そういった側から、全員倒して一息つく朝が、こちらへ戻ってくる。

 本当に俺、ここにいていいのか?

 いろんな意味ですごい一行に、改めてミルラはそう思ってしまった。ついていく理由は一つ。夜に言われた言葉の意味を知るため。そして、昨日感じたものを確かめるために・・・。 
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