世界の果てで会いましょう

第3話「カタチナキモノ」

「所詮、年なんて人の概念上に作られた、便宜上のものなのに、その便宜に人間は見事に振り回されてるのに気づくのは、いつなのだろうね?」
とは夜。
「あ?そんなもん、別にどうでもいいだろうが。まぁ、お前よりは年上だよ。」
 とは朝。結局不明かよ、とミルラは思った。二人の年齢を聞いたとたん、これだ。としをいいたくないからはぐらかされているか、からかわれているのかだと彼は思う。
「私ですか?今年で18になります。ミルラさんはどうですか?」
ミルラの質問にやっと普通に答えてくれたのは、このたびパーティーで唯一の紅一点、ユエである。普通反応だったのに、なぜっかれは感涙しており、
「あの〜、ミルラさん?」
ユエに問いかけに、はっとミルラは我に返った。
「あ、すみません。俺は17ですけど・・・ユエさん俺より1個上だったんだ・・・。」
ミルラはそういってユエを眺める。少々幼さの残る顔立ち、旅をしていると手入れの大変そうな腰まで届く、夜を封じ込めたような長い青髪に、同じく海の色をした瞳。パッと見、十四、五歳ほどにしか見えぬ彼女は18歳なのだという。それが少し、ミルラには不思議に思えた。まるで、何かの力によって、年をとるのを極端に遅くされたような・・・・・・
「やっぱり見えませんよね。」
苦笑しがちに彼女は答える。
「あ、おれのこと、そっちが年上なんだから呼び捨てでいいですよ。まぁ、俺はユエさんって呼ばせてもらうけど・・・。」
呼び捨ては怖いし、こっそり心の中でミルラは付け足す意味はあるが、たいしたことではないので割愛させていただく。そんな会話などまったく興味がない、というように、夜と朝は前を歩いていた。と、その二人が急に立ち止まる。
「?どうしたんだ?」
疑問に思い、ミルラが前方を見れば、誰もいない。廃墟の町が広がっていた。恐らくこのご時世だ。戦乱に巻き込まれ滅んだか、もしくは戦禍を恐れて人々が町を捨てたのか。どちらにしろ生活の匂いを失った様は、死者の住まう場所へと変貌していた。無言のまま夜はその入り口へと向かい、
「入っていいよね?」
誰もいぬ場所であるはずなのに、誰かに問いかけているようだった。いぶかしむミルラだったが、次の瞬間、不意に人の声がした。
「いいよ。」
「どうぞ、どうぞ。」
どこからともなく聞こえてくる声は、かなり異様ではあったが、朝は振り返り、
「ミルラ、見えるか?」
突然、意味不明な言葉を投げつける。
「は?何が?・・・って、なんだよ、これ?」
分からないと答えようとして、急にミルラにも見えた。街に透明な姿をした人形のようなものが歩いているのを。
「これは・・・ここに住んでいた人たちの残像・E・のようなものだと思います。」
「いや、ユエ。それよりももっとタチが悪いよ。」
静かに告げるユエの言葉と重なるように、夜が続ける。
「どうタチが悪いんだよ?」
やけくそ気味なミルラの問いに答えたのは、朝。
「ここにいるやつらは、自分たちが死んだことすらも分からず、住み慣れたこの場所をうろうろしてるだけだ。自分たちが生きてた時と同じ生活を繰り返すだけの、な。」
その声に、感情はこもっていない。あくまで淡々としていた。
「どうしてそんなこと分かるんだよ?」
いまだ一人納得できないミルラは、そう問う。
「理由は簡単。僕らがミルラのいた村による前に、ここによってて、その時はそこら中に亡骸があったから。多分、はやり病とかそんなところだろうね。たまたまここが全滅する前に出た商人の話では、かなり深刻だったらしいし、ね。納得できた?ミルラ。」
どこかとぼけた口調の夜に、
「分かった。」
それだけしかミルラは返事できなかった。

自ららの死に、気づかぬ住人たち


それらは本人たちにとり 幸せであるのか


わきあがる思いはただ募る



ただ、彼は思う。このたびの目的など知らず偶然参加した。それは本当に偶然なのか?何かが、自分の中で目覚めようとしている?



 それが分かるのは、しばらくしてから。
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