世界の果てで会いましょう

第2話「外の世界」

町は真夜中であろうに、ひどく騒がしかった。外に出てミルラが聞いたのは、この町を仕切っていた「カリブ」の幹部達すべてが死んだ、ということだった。
「どういうことだ?」
「何でも、弾薬庫に誰かが火を放ったらしいんだ。それであいつらがいる場所に倉庫が近くてそのまま・・・だそうだ。」
「あっけないな。」
「拍子抜けするよ、まったく。」
「けど、これで町は自由だな。」
そんな人々の喧騒を聞きながら、ミルラは先に進む夜という少年を追った。かすかに頭をよぎったのは、亡くなった両親の墓のこと。簡易で粗末なものしか素人の彼には作ることしかできなかったが、不意にそれが蘇った。それは、何かの予感。もう二度と、ここには戻ってくれなくなるような・・・


その日、この町からミルラという名の少年は姿を消した。


 夜という少年がやっと足を止めたのは町の出口だった。しかも、目を凝らしてよく見れば、二つの人影がある。彼の連れだろうか?そんなミルラの疑問はすぐに解消された。何故ならば、夜は明らかにうれしそうな顔をして、――暗闇ではあるが、かすかな灯りでそう見えた。――その誰かに向かって走っていったのだから。
「ただいま〜♪」
うれしそうに、夜は少女に抱きつく。少女もうれしそうに、返事する。
「おかえりなさい。」
「うん、ただいま。ユエ。迷惑かけてゴメンね。」
謝罪の言葉に、ゴツンと夜の頭を叩いたものがあった。それまで動かなかったもう一人の人物のようだ。夜は振り向かずとも誰か分かっているようで、
「朝にも、迷惑かけたね。ゴメン。」
先手必勝とでもいいたげに謝る。朝、と呼ばれた人物は、暗闇でよく見えないが、大柄だ。
「お前はいっつも人に迷惑かけっぱなしなんだよ。少しは自重しろ。」
言わんとしていた言葉を言えなくなり、それでも朝は何とか注意する。そして、朝はミルラの存在に気づいた。


和気あいあいとした空気の中で、一人ミルラは取り残された。知り合って間もないからそれはしょうがないかもしれない。そもそも妖しげな少年についていった自分もおかしく思った。別についてこなくてもよかったのだ。ただ、夜のあまりにも意味深な言葉が気になってついてきただけで、特に用もなかった。何してるんだろう?俺。自嘲気味に思い始めたその時だった。朝が声をかけてきたのは。
「あんた、名前は?」
不意に尋ねられた言葉に、ミルラは思わず面食らう。気がつけば、目の前には大柄な男。確か、夜は朝と呼んでいる人である。
「ミルラ。」
彼は静かに答えた。
「ふ〜ん・・・」
口の中でそんなふうな声が聞こえる。しかも、朝は何故かミルラをジーっと見つめる。居心地悪そうにし始めたミルラに、助け船が下る。
「朝さん、そんなに見つめると、ミルラさんが困ってしまいますよ。」
夜にユエと呼ばれた少女がいつの間にか、自分たちの近くに来ていた。同意の意味か、夜は首を上下にふっている。無遠慮に見つめていたことにやっと気づいた朝は、
「すまないな。」
と軽く謝る。ようやく視線から開放されたミルラは、大きなため息をつくだけだ。ただ、朝の放った言葉に、耳を疑った。
「なるほど。昼か。」
だからそれは一体何なんだ?本気でそれを口に出していいたくなった。はっきりいって何が何だかさっぱり分からん。それらはすべて表情に出ていたのか、
「訳が分からない?って顔してるな。そんなに気になるんだったら、ついてくればいい。」
朝がそういってきた。
「へ?いやそう簡単に言うけどさ・・・俺そんな旅に必要な装備とか何かなんてさっぱり分かんないし・・・。」
言いよどむミルラに、ユエという名の少女が口を出す。
「いかないんですか?いくんですか?」
「・・・行きます。訳分かんないままいるのはやだし。」
答えは案外あっさり返ってきた。それにユエは満足したのか、
「そうですか。私はユエといいます。よろしくおねがいします。」
「あ、ごていねいにどうも。」
ユエとミルラがあいさつして握手をしている時、後ろで二人は話し込む。
「やっぱり僕の見立ては正しいだろ?朝。」
「・・・まあ、な。・・・しかし、ミルラは随分と変り種だな・・・比較的平和に力に目覚めてるし・・・。」
「その方がいいもんでしょ。僕らは・・・ひどかったしね。多少そのほうがいいじゃないか。傷のなめあいなんて、いい加減いやだろう?」
意味深に話し込む。東の空からは、朝日が昇ろうとしていた。
「朝、そろそろ君の時間だよ。」
夜の言葉に、朝はめんどくさそうに、つぶやく。
「この町に、ミルラという若者はいなかった。そしてまたこの町は滅びが来るまで栄えるであろう。・・・これでいいだろ。」
「うん。」
しばらくそんな会話が続くかと思いきや、
「あ、ミルラ、ユエに手、出したら承知しないからね!!」
二人が握手しているところを夜が目撃し、そんな事を言う。
「誰もジャマしないだろ。こっちが呆れるぐらいにラブラブなんだから。」
朝のツッコミが、朝日と共に去る風に乗っていった。
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