EVER GREEN

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第八章「沙城にて(前編)」

No,0 プロローグ

 どうすれば、声は届くのだろう。
 どうすれば、願いは叶うのだろう。

「……っ」
 かつて欲しくてやまないものがあった。
 でも願いが聞き入れられることはなかった。
 全ては五年前から決められていた。遅かれ早かれこの日がくることはわかっていた。
 そんなこと、わかっていたはずだったのに。
「長くいすぎましたね」
 ひとりごちて苦笑する。
 本当にそうだ。どうして俺は、こんな愚かなことをしているのだろう。
 どうして俺は、手放そうとしなかったのだろう。
「しゃべんな……っ」
 目を開けると、そこにはあの子がいた。
 それは、あの頃と全く変わらぬ光景。変わってしまったのは年月か、それとも言葉を交わす者の姿か。
 俺は――
「なんて、顔……してる……」
 唇からもれたものは、果たして声になったのか。

『あんたっていつもそう』
 ああ、そうだ。
 本当は欲しかっただけ。
 昔から俺は全く変わっていない。あの時からずっと。
 変わったのは容姿だけ。歳をおえば人は変わる。自然の摂理に沿っただけ。
 仮面をつけることに慣れただけ。いや、もしかしたらそれすら変わっていないのかもしれない。

『いいかげん気づけよ! じゃないとおれが姉ちゃんをつれてくからな!』
 ああ、そうだ。
 こいつは変わっていない。あの時からずっと。
 中身は変わっても、本質的なものはまったく変わっていない。反吐(へど)が出るくらいに。

 本当は怖かったのだろう。
 知ることが。知られることが。
 『今』が壊れることが。

 鍍金(めっき)がはがれた。ただそれだけのこと。
 だから、お前が泣く必要はない。

 ――カイ。
 俺は約束を守れただろうか。
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