EVER GREEN

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第四章「夏の日に(前編)」

No,7 聖獣を探して

『聖獣』と『剣』。
 二つの言葉が頭をよぎる。
「ノボル、地球の聖獣って何だ?」
 話が一段落すると、お嬢と極悪人はもっと込み入った話をすると言って部屋を出て行ってしまった。シェリアは元々別の部屋だし。だからここにはオレとショウしかいない。ただボーっとしてるのもなんだからこうしてお互いの近況を報告しあいながら荷繕いをしてるってわけだ。
「聖獣?」
「一つくらいあるだろ? おとぎ話に出てくるような曰くつきの動物とか」
 ああ、そーいうことか。
「そーだなー。色々あるけど。一番有名なのは竜かな」
「リュー?」
 ショウが眉をひそめる。って、空都(クート)に竜っていないのか?
「ドラゴンとも言うけど。RPGの敵キャラでもよく出てくるし、十二支にもしっかり入ってるしなー」
「アール……? ジュウニシって何だ?」
 そう言ってますます眉をひそめる。どーやらこの単語は地球だけのものだったらしい。
「えーと。羽があってトカゲみたいで……何か描くものある?」
 紙を借りて、うろ覚えで竜の絵を描く。
「へぇ。お前って絵うまいんだな」
「そっか?」
 そう言われると悪い気はしない。
「それで、そいつはどこに生息しているんだ?」
「さあ? それこそおとぎ話でしか聞いたことないから。山奥とか洞窟とか?」
 ヤマタノオロチにスサノオノミコト。イナバの白兎。オレの知ってる限りじゃそんなとこだ。あ、『エルマーの冒険』とか昔やってた『ネバーエンディングストーリー』にも出てたっけ。でも実際の竜の住処なんて考えたこともなかった。
「そー言えば、空都(クート)の聖獣は? ここにもいるんだろ?」
『それぞれの世界の聖獣』とアルベルトは言っていた。ってことは、地球と空都(クート)と霧海(ムカイ)それぞれに聖獣がいるってことなんだろう。
「この世界の聖獣はゼファーと呼ばれてる」
「『ゼファー』?」
「はるか北にある土地に生息している鳥のこと。なんでも神が地上に遣わした一番最初の動物らしい」
「ふーん」
 とは言われても今ひとつピンとこない。それにしても、こーいう話ってどこにでもあるんだなー。
「残る一つは霧海(ムカイ)にいるんだろうな。でも霧海の聖獣って一体何だ? それをどうやって手に入れるんだ?」
 自分の荷物をまとめながら軽くため息をつく。
「ショウにもわからないことってあるんだ?」
「15年しか生きてないんだ。知らないことの方が多いに決まってるだろ」
「へ? オレもだけど」
 そう言うと、目の前の奴は心底驚いた顔を見せた。
「……俺、てっきり年下だと思ってた」
「どーいう意味だよ」
「いや、あまりにも頼りなかったから……」
 決まり悪そうに頭をかく。どーせオレは頼りない奴だよ。
「霧海(ムカイ)に行ったって話してたよな。お前ってなかなかすごい奴だな」
「おかげさまで地球ではありえないことばっか体験させてもらってる」
「確かにな」
 そう言って二人苦笑する。
「異世界を訪れた時に授けられる能力、だったよな。ノボルの場合、それってとんでもない強運なのかもな」
「まっさかー」
 そう笑いながら、ふと考えてみる。
「……もしかしたらそーなのかも」
 もっとも、いい意味でも悪い意味でものような気がするけど。
「本気にするなよ」
 オレの内面を知ってか知らずかショウが再び苦笑する。
 そう言えば――
「なあショウ。椎名の能力って何?」
「急になんだよ」
 荷物をまとめていた手を止め、怪訝(けげん)な顔をする。
「なんとなく。椎名も霧海(ムカイ)に来たって話はさっきしたろ? オレみたいに異世界の色々な言葉が一発でわかるとか?」
 リザの話だと『わざわざ遠いところから来たんだから一つくらい、いい思いさせろ!』って原理で異世界に行くと何かしらの能力がつくものらしい。椎名は空都(クート)に来たことがある。だったら椎名がこの世界で身につけた力ってなんだったんだろう。
「いや。シーナは違う」
「じゃあ、すっげー術が使えるとか?」
「……いや」
「じゃー何?」
「……強いて言えば『鳥』」
 いつかの時と同様決まり悪く言って視線を床に落とす。
「それって……」
 ついさっきまで話していた会話が頭をよぎる。
「わかった。聞かない」
 っつーか、あれこれ考えるのはもう飽きた。考えれば考えるほど変な方向につっぱしっていきそうで恐いし。
「もし術ができたらショウもオレんとこに来いよ。同じ世界にばっかいてもつまんないだろ?」
 だから努めて明るい声をあげる。
「それが普通。お前が変わりすぎてるんだ」
「それを言うなって」
 どんどん日常が『普通』じゃなくなっているのはさすがに自覚している。けど、それをまんざらじゃないって感じている自分がいるのも自覚してる。
 ……オレってもしかしてマゾなんだろーか。
「あー、なんか眠くなってきた」
「もうそんな時間なのか?」
「ずっと走りっぱなしだったからなー。いい加減疲れるって」
「前も同じようなこと言ってたな」
「そーだっけ?」
 やば。マジで眠くなってきた。
「オレもー寝る。何かあったら起こして」
 いつかの時と同様ポフッという音をたて、ベッドにあおむけになる。
「じゃーおやすみー。……あ」
「何だ?」
「椎名は元気だよ。これで安心したろ?」
「…………っ!」
 ショウのつぶやきは睡魔にかき消されて聞き取ることはできなかった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「昇くん、どうしたの? ぼーっとして」
 目の前で椎名が心配そうに手をちらつかせる。
「なんか寝たりなくて」
「もう一度寝る?」
「そうしたいけど、それはそれで疲れそうだもんなー」
「それもそうだね」
 寝るのはいいけど今度は別の世界に行ってしまうわけで。いい加減なれたつもりだったけど、状況が状況だから疲れがなかなか抜けない。昨日はああ言ってたけど、こりゃマジで睡眠時間足りないぞ。
「あのさー。『聖獣』とか『剣』って知ってる?」
 寝ぼけ眼のまま椎名に問いかけてみる。
「『ツルギ』? 場所とか人の名前とか?」
「そーいう路線もアリだな」
 わかっているのは名前だけで実際どんなものなのかわからないって極悪人も言ってたし。
「それがどうかしたの?」
「実は――」
 隠していてもしょうがない。オレは椎名に昨日会ったことを話した(シェーラが命を狙われてるってことについては避けたけど)。
「それぞれの世界の聖獣?」
「一つは竜。一つは鳥。もう一つはわかんない。なんでもその力を借りないとダメなんだってさ」
「鳥……」
「椎名?」
 それは、さっきまでショウがしていた表情だった。
「昇くんはその力が必要なの?」
「まあ……うん」
「本当に? 何があっても?」
「え……」
「はっきり言って!」
 なんだ? 今日の椎名ってなんでこんなに迫力があるんだ?
「椎名? オレ何か変なこと言った?」
「いいから! 答えて!」
 語気は荒く、眉はいつもよりつり上がっている。よくわかんないけど、ここは素直に言った方がよさそうだ。
「……ほしいよ。オレにはそれが必要なんだ」
 ある意味人の命がかかってるからな。
 その一言は胸にしまっておく。オレの一存で椎名を危険な目には逢わせたくなかったし。
「……わかった。ちょっと待ってて」
 ようやく表情を元に戻すと、自分の部屋にもどっていった。オレ、何か触れてはいけないこと聞いたんだろーか。
 しばらくすると、手に何かを握り締め戻ってくる。
「使って。昇くんに必要なものだと思うから」
 握っていたものをオレの手の上に置く。掌にのせられたもの。それは――
「羽?」
 大きさはオレの手よりも少し大きい。普通は白いものを想像するけど、その色は違っていた。
「なんで……」
 その後は何も言えなかった。
「いつか……話す時が来るから。それまで……お願い」
「椎――」
「じゃあ部活あるから行くね」
 バタン! とドアは勢いよく閉められた。
 聞きたいことはたくさんあった。でもあんな顔見せられたら聞けるわけがない。
 藍色の羽。光にかざすと、それはうっすらと透き通って見えた。
「……ま、なんとかなるさ」
 誰にともなく口にすると、羽根をポケットにしまった。
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