EVER GREEN

BACK | NEXT | TOP

第四章「夏の日に(前編)」

No,6 安眠を手に入れるために

「ショウ久しぶりー! 元気だった?」
「おかげさまで。そっちも元気そうだな」
 結局。あの場所で話すのもなんだったから宿に戻ることにした。
 嬉しそうにはしゃぐシェリアに対してショウの方は平然としている。
「シェリア。これから大切な話があります。あなたもお聞きなさい」
 お菓子の袋を差し出しながら極悪人が言う。
「大切な話?」
「あなたも聞くべきでしょう。事態は深刻なようですし。そうでしょう?」
 そう言ってお嬢の方を見る。
「……一度しか話さないからな」
 みんなの視線が集まる中、さっきと同様シェーラがぽつぽつと語りだした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「なにそれっ! 許せない!!」
 シェーラの話が終わってすぐの一言がこれ。
 お嬢が王家に縁の人物だったということよりも周りのお嬢に対する対応が許せなかったらしい。
「なんでその人のとばっちりをうけなきゃならないのよ! 命を狙われるこっちの身にもなってよ!!」
「……命を狙われているのはわたくしなのだが」
 本来、一番憤り感じるはずの人物はシェリアの反応に戸惑っている。それくらい、シェリアの怒りはすさまじかった。
「あなたは悔しくないの? 自分の一生をいいようにもてあそばれて」
 興奮もさめやらぬままお嬢を見据える。
「……悔しくないはずがないだろう」
「だったら――」
「だったら? わたくしにどうしろと?」
「う……」
 シェリアもオレと同様そこまでは考えていなかったらしく、
「それでも……どうにかするべきよ」
 そう言って口ごもってしまった。
「やけに親身だな」
 さっきだって、まるで自分のことのように怒ってたし。
「……アタシにも似たような経験があったから」
「似たような経験?」
「ラズィアの一件ですね」
「アルベルト! それは――」
 ショウが珍しく声を荒げる。
「いいの。もう昔の話になるんだし」
 そう言って肩を落とし、お嬢の方に向き直る。オレとしては『ラズィアの一件』ってのが気になるけど今はそれどころじゃないだろう。
「シェーラ、アタシのフルネーム言ってなかったわよね。シェリア・ラシーデ・ミルドラッド。こう言えばわかってもらえる?」
「ミルドラッド――カザルシアの王家の者なのか!?」
 どうやらそのへんの知識はあるらしく、心底驚いたような表情をする。オレもこいつが公女様なんて言われるまでまったく気づかなかったもんな。
「なぜ王家の者がそのようないでたちで旅をしているのだ!? 護衛もなしに」
「あら。護衛騎士様ならちゃんとここにいるわ。ね? ノボル」
 全員の視線が護衛騎士――オレに集まる。
「いつの間に騎士になったんだ?」
「極悪人の弟子というおまけつき」
 ジト目のショウに涙で答える。
「ずいぶんたくましい護衛騎士だな」
「るせー!」
 シェーラにまでつっこまれ、もはや返す言葉もない。
「それで、これからどうしようかという話でしたね」
「……そう」
 さっきのシェリアと同様肩を落とし極悪人に向き直る。
 なぜかずいぶん遠回りをしたような気がしないでもないけど、そーいうことだ。
 シェーラを安全なところに避難させる。それができないと、こいつも、ひいてはオレも命が危ない。
「そうですね。とりあえずは……」
『とりあえずは?』
 極悪人の言葉に全員が息をのむ。
「あなたが無事に帰れる方法を探しましょう」
 ……はい?
「時空移動をできる方法を探しましょうと言っているんです」
 あなた――オレの方を見てにこやかに答える。
「待てよ。そりゃあオレだって元の世界に帰りたいよ。けど今はシェーラの方が先だろ?」
「さっき言ってたじゃないですか。シェーラを自分の世界に招き入れたいと」
「あ」
 そーか。そーいうことか。
「ねえ、どういうこと? 話が全然見えないんだけど」
 シェリアが不思議そうな顔をする。
「オレがこっちで起きている――覚醒している時間は地球――むこうでオレが気絶するか眠っている間だけなんだ」
「それはわかるわ。シーナの時とおんなじだもの」
「それを解決できるような道具をリザに頼んでたんだよ。もしそれが完成してオレが地球と空都(クート)を好きな時に自由に行き来できるようになれば、それを応用してこいつをオレの世界に連れてくる――避難させることもできるってこと」
「その手があったか!」
「確かにそれなら安全ね」
 ショウとシェリアが感嘆の声をあげる。
「あとはお前次第だけど、どーする?」
 声をあげなかった残りの一人に問いかける。
「……本当に大丈夫なのか? 『地の惑星』に行くことが出来たとしても、敵が襲ってこないという保証はないだろう?」
「でも来るって可能性だってないじゃん?」
 つとめて笑顔を装いシェーラの肩を叩く。
「どっちにしたってオレは『平穏無事な安眠を手にいれる』――元の世界に帰れる方法を探してたんだ。地球に来るのが一人から二人になっただけの違いだって」
 本当は、絶対大丈夫だという保障はどこにもない。けど誘ったのはオレだし自分だけ安全なところにいるってものなんか気がひける。
 それは単に自分の保身のための口実なのかもしれない。けど、何かしたい。シェーラ――友達のためになにかしてやりたい。
「ま、問題はどーやってその道具を作るかだけどな」
 頼んではいるものの、肝心の道具を作ってくれる人ことリザはもう一つの異世界に滞在中。また霧海(ムカイ)に行けと言われてもそれこそ無理だし。
「方法が全くないというわけではありませんよ」
 ……は?
「もしかして知ってるの? 異世界に行く方法」
「リザに聞いたことがありますから。第一、この前どうやって霧海に行ったと思ってるんです?」
 シェリアの驚きの声に涼しげな顔で答える。って――
「アンタ、はじめっから知ってて言わなかったのか――」
「帰りたくないんですか?」
「……教えてください。お願いします」
 こいつのエセ笑顔がこれほど憎らしいと思ったことはなかった。
「異世界を移動する手段はいくつかあります。霧海(ムカイ)からこちらへ戻った時のことを覚えていますか?」
「えーと。神殿の像の中にあった空色の球体を使ったんだよな?」
 おかげでひどい目に遭ったけど。
「そうです。でもあれは一回しか使えないんです」
「それじゃ打つ手ないじゃん。道具だってリザしか作れないし」
「確かに彼じゃないと無理でしょうね。あれは高度な技術が必要ですから。ですから道具じゃない手段を使う。要するに術を作るんです」
「けどオレには術の素質がないって言ったじゃん」
 ここ(空都)に来て間もない頃シェリアに習って術の練習をしていて。その一言にすぐあきらめたんだった。
「あなただけの術を作るんです。オリジナルなら本人の能力もさほど関係ありませんから」
 そーいうもんなのか? けど、それが本当だとしたらオレにもできるのかもしれない。
「『術』ってそんな簡単に作れるものなの?」
「簡単に作れるものなら誰だって作ってますよ。そのための条件が厳しいんです」
 だよなー。誰でもほいほいそんなすごいことが出来たら苦労しない。
「それぞれの世界の聖獣と剣の力を借りるんです」
 聖獣と剣?
「ショウ知ってる?」
「聖獣の力はなんとなくわかるけど、『剣』って何だ?」
 ショウもその言葉には初耳だったらしく顔をしかめている。
「リザが話しているのを聞いただけですから。わかっているのは『剣』という単語だけ。名前どおり『剣』の形をしたものなのか。それとも『剣』という名の別の形をした代物なのか。全く見当もつきません」
「そんなわけのわかんないものの力を一体どーやって借りるんだよ!」
「それをなんとかするのがあなたの仕事です。帰りたいんでしょう?」
 意味もなく爽やかな笑顔で再びのたまう。このエセ笑顔が心底憎たらしい。一発くらい殴ったらダメだろーか。
「やはり無理なのではないか? わざわざ苦労などしなくても――」
「前にも言ったろ? 『なんとかなるさ』って。何もしないであきらめんなよ。オレもなるべく早くこっち(空都)に来て探すようにするから。その『聖獣』なり『剣』なりをさ」
 半ばヤケクソで言いきり、お嬢の珍しく気弱な発言を黙らせる。
「ですが、意外ですね」
「何がだよ?」
「あなたがリザに道具の精製を依頼した時、あなたは早くこの世界から離れたいと言っていた。なのに今度は友人のためにここにいたいと言っているのですから」
「そんなの当たり前だろ? いくらなんでもそこまで自分勝手じゃないぞ? オレ」
 そりゃあ、早く平穏無事な安眠を手に入れたいって願望は今もあるけど。優先順位くらいわかってるつもりだ。
 それに――
「本当に地球人は変わった人間の集まりですね」
「どーいう意味だよ」
「そのままです」
 極悪人のセリフに釈然としないものを感じるけど、深くは考えないことにした。
 聖獣と剣。
 ……一体どーやって探すんだ?
BACK | NEXT | TOP

このページにしおりを挟む

ヒトコト感想、誤字報告フォーム
送信後は「戻る」で元のページにもどります。リンク漏れの報告もぜひお願いします。
お名前 メールアドレス
ひとこと。
Copyright (c) 2003-2007 Kazana Kasumi All rights reserved.