EVER GREEN

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第二章「わがままお嬢のお守り役」

No,6 結局オレが悪いのか?

 オレの通っている県立楠木(くすのき)高等学校は、午前8:30に始まり午後3:50に終わる。部活をやってる奴はその前後におまけがつく。
 いつもはうっとうしい先生の授業も今日は子守唄のように聞こえる。
「?」
 目の前で何かがチラつく。
「おーい、だいじょぶかー?」
「うっとーしーからやめぃ」
 さっきから教科書をチラつかせている人物(本当にうっとうしい)の手をどける。
「人が心配してやってるのに冷てーなぁ」
 犯人はいわずと知れた坂井。
「なあ、相談なんだけど」
「なんだ、ホントに悩みなんてあったのか」
「……心配してやってるって言ってなかった?」
「はいはい。で、続きは?」
 うまいように誤魔化されてる気がしないでもないけど、まあいい。そのまま話を続ける。
「女子に謝る時って、何て言えばいいと思う?」
「…………」
 少し間があいた後、例のごとくオレの肩に手を置く。
「昇……」
「言っとくけど椎名のことじゃないからな」
「そーなのか? オレはてっきり」
 てっきり何を想像してたんだ。
「…………」
 そんでもって、また間があいた後、今度は肩をつかみにかかってきた。
「ってことは、なんだ? 女か!?」
「さっきからそーだって言ってんだろ?」
 そう言って再び坂井を見る。
「坂井?」
 返答なし。どうやら絶句してるらしい。
「おーい」
「お前、いつの間に女なんか……」
 そう言うや否や、肩をつかんでいた手を首にかえてシメにかかった。
「なんでお前みたいな奴に先を越されなきゃならねーんだよ!」
「何勘違いしてんだよ!」
 はやとちりもいい加減にしろ!
「いーやっ、オレは騙されないぞ。見かけはそう変わらないのに! いやむしろオレの方が上なのになんでお前だけなんだ! ちくしょー、世の中絶対間違ってる!」
 さりげなくひどいことを言いながらぎゅうぎゅうしめつける。否定はしないが友人としてひどいぞそれ。
「だから間違いだって言ってんだろ! オレに彼女がいるように見える?」
「……言われてみれば」
 ここでやっと首をつかんでいた手を離す。なんとか事態が理解できたらしい。
「そうだよなー。オレより先に、お前に彼女ができるわけないもんな」
 うんうんと一人納得している。『世の中絶対間違ってる』って人の首絞めたのはどこのどいつだよ。
「彼女の線は消えたとして、お前一体何やらかしたんだ?」
 あくまで強引に話を進める気だ。いい性格してんよ、ホントに。
「すっげーわがままだったから文句言ってやった。そしたら急に相手がしょげちまって」
「珍しーな。お前がキレるなんて。相手が女子ってのも驚きだけど」
 自分でも驚いたとも。
「まぁオレも言いすぎたとは思うけど」
 決まり悪げに鼻の頭をかく。
 アレって絶対泣く一歩手前だったよなー。男を泣かせるならともかく、女子となるとなぜか後ろめたいものを感じるのはなぜだろう。
「だったら簡単。とっとと謝ればいいんだ」
「オレが? 悪いのはあっちなのに?」
「でも言い過ぎたって思ってんだろ?」
「まあ、それなりに」
 あんな顔をされるとは思っても見なかった。てっきり反撃がくるとばかり思ってた。
「じゃあ仕方ないじゃん。『ごめんなさい、私がわるうございました』これで万事丸くおさまるってわけだ」
「そんな簡単にいくか?」
「女ってのは多少気分屋なとこあるからな。こっちが下手にでれば大抵は許してくれるだろ」
「なんか説得力があるようなないような」
「要はとっとと謝ればいいんだよ」
 確かにそれは一理ある。けど、ホントにそううまくいくのか?

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「シェーラなら寝てるわ。動きたくないって」
 やっぱり、そううまくいくわけがなかった。
 時計は地球時間で午後九時。場所はとある宿の一室。なんでもあの後からずっと部屋に閉じこもっていたそーだ。
「ノボル、シェーラとケンカしたの?」
 シェリアがためらいがちに聞いてくる。
「……まーな」
 当たらずとも遠からず。
「何があったのかは聞かないけど、謝ったほうがいいんじゃない?」
 そのセリフ、むこう(地球)でも言われましたよ。
 それにしても昨日はあれだけ嫌っておいて、こうまで態度が変わるとは。女子ってこーいうもんなのか?
 まあ、何はともあれ行動しないと始まらないか。
「シェリア、シェーラさんの部屋までついてきてくんない?」
「いいけど、どうして?」
「オレだってわかったら警戒するかもしれないだろ?」
「わかった」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「シェーラ、入るわよ?」
「…………」
 返答なし。
「今朝からずっとこの調子なの」
 そう言って苦笑する。
(シェリア、しばらく二人にしといてくれる?)
 シェーラさんに聞こえないよう小声で話す。相手はかなりの強敵。ここは一対一で話し合うしかなさそうだ。
(わかった。ちゃんと仲直りしてね)
 同じく小声でそう答えると、シェリアは部屋を出て行った。
「えーと……」
 とはいえ、二人きりってのもなんか落ち着かない。謝ろうと思ってはいたけど、何をどう話せばいいんだろう。肝心の彼女は毛布をかぶっていて表情が見えないし。
 とにもかくにも謝るしかないか。
「昨日はごめん。オレもちょっと言いすぎた」
 返事はない。
「シェーラさんにとってみれば無理矢理引き込まれたようなもんだもんな。急にオレ達と打ち解けろってのも無理があるだろーし」
 考えてみれば誰だってそう簡単になじめるわけないもんな。
 けど何故か異世界に来て、強制的に公女の護衛と極悪人の弟子になったあげくそれでもなんとかやってるオレって……。
 いかん。悲嘆にくれてる場合じゃなかった。
「昨日言ったこと、気にしてたならごめん」
 とにかくひたすら謝る。
「アンタが王女とかお嬢様とかオレが勝手に想像してただけだもん。本当は何者であれ、シェーラさんはシェーラさんであって、それ以外の何者でもないもんな」
 やっぱり返事は返ってこない。そうとうご機嫌ななめらしい。
「シェーラさんが邪魔ってことじゃないから。言いたかったのはそれだけ。じゃ」
 そう言って部屋を出て行こうとすると、
「……はじめから素直にそう言えばいいのだ」
 背後から、今日初めて聞くシェーラさんの声がした。
「貴様の言葉に悩んだわたくしも愚かだった。貴様こそ『思いやり』というものが足りないのではないか?」
 このわがままお嬢は……!
 耐えろ、耐えるんだ。ここでキレたら昨日の二の舞だ。
「なんだ?まだ何か不満でもあるのか?」
 言葉には目をくれず、代わりに褐色の腕を握り締める。
「何を――」
「オレを殴るなりなんなりしてよ。それでこの件は終わり。それでいーだろ?」
 そう言って硬く目をつぶる。
「正直、納得できてないけど。おとなしく殴られるから。その代わり、もう何も言わないでくれ」
 レディーファーストなんて言葉、誰が作ったんだろう。
 そりゃ、力は男の方が女よりも強い。そのくらいわかる。でも『男だから』って何でも悪者にするのはやめてほしい。男尊女卑なんて時代錯誤なことは言わないけど、せめてちゃんと平等扱いしてほしい。
「……ふん」
 手を強引に振り払うと、
「貴様に言われなくても、わたくしはわたくしだと言う事くらい充分わかっている」
 いつものわがまま口調が返ってきた。
「ノボルと言ったな。早く食事の支度をしろ。昨日から何も口にしていないのだぞ」
 初めてオレの名前を呼んだ。これは許してもらえたってことなんだろーか。
「何をしている。早く作れ」
「…………」
 こめかみを引きつらせつつも 、
「わかりましたよお嬢様」
 口から出たのは深い深いため息だった。
 これって結局、事態は昨日と全然変わってないってことだよなー。
 彼女の声のトーンが今までより若干明るかったのは、オレの気のせいだろう。
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