陽のあたる場所で

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  03:心の棘  

「……あたしが神の娘? 冗談もいい加減にしろ」
 それが、あたしがあいつらに言った第一声だった。
 ルシオーラが持ってきた服に着替えて身なりを整えて。事情がわからないからおとなしく目の前の奴の話に耳をかたむける。
 悔しいけど痛みはさっきの奴のおかげで動ける程度には回復した。けど、あいも変わらずあたしはベッドから離れることができない。
「さっきの奴――」
「アルベルト」
「……ハザーとあんたの関係って何? 少なくとも兄弟には見えないけど」
 見た目は全然違うけど親しそうに見えた。
「わかってるなら名前で呼んであげればいいのに」
 腕に新しい包帯を巻きながら苦笑する。あたしがベッドから動けないのはこういう理由からだ。
「初対面の奴を名前で呼ぶような奴はまずいない」
 第一あんな得体の知れない奴。『人の嫌がることをするのが大好きなんです』なんて普通言うか? ああいう人種には絶対近づきたくない。
「気兼ねなんかしなくていいのに。オレ的には『リザおにーさん』って読んでくれると嬉しいな♪」
「絶対言わない」
 ぴしゃりと言い放ったにもかかわらず鼻歌を歌いながらさらに包帯を巻きつける。できればこいつともかかわりあいたくはない。
「それでオレの言ったことは理解できた?」
「無理。あんただったらはいそうですかって納得できるのか?」
 見ず知らずの場所でおとぎ話を聞かされて。『あなたは神の娘です』って言われても納得できるわけがない。
「納得できてもできなくても仕方ない。君は『神の娘』で、オレ達は君をこの世界に、空都(クート)に召喚した。これはまぎれもない事実なんだから」
 真面目な顔をしてさっきと全く同じセリフを口にする。
「そんなことができるの?」
「互いが互いを必要としていればね。よし、終わりっと」
 わけのわからないことを言いながら包帯の端をテープで固定する。
 確かに、ここはあたしが今までいたところとは違う。
 覚えているのは体中を引き裂かれるような痛み。朦朧(もうろう)とした意識の中、道路に出て。その後――
 召喚って確か物とか人を呼び寄せることだったと思う。もしこいつの言うことが本当だったらあたしはとんでもない状況にいることになる。
「君の傷のことだけど」
 その言葉に一気に現実に引き戻される。
「かなりひどい。アルが見てくれたからよかったけど普通ここまでひどくはならない。一体何があったんだい?」

 何があった?
 なんで見ず知らずのこいつにそんなこと聞かれなきゃならないんだ。
『おまえは黙って言うこと聞いてりゃいいんだよ』
『お願い。あなたがいい子にしてたらお父さんも笑ってくれるから』
 嘘ばっかり。あいつは一度も笑ってくれたことなんてなかった。黙っていても何もされなかったためしもない。
 だからあたしは――

「どうやら傷は体の方だけじゃなさそうだな。そっちの方にもしっかり棘が刺さってる」
「どういう意味?」
「無自覚ってわけじゃないんだろ? 時間をかけて解決していくしかなさそうだね」
 相変わらずわけのわからないことを言いながら肩を軽くたたく。
「それで? あたしに何をさせたいんだ。まさかこの世界を救ってくださいって?」
「その逆ですよ」
 ドアを開けトレイを運びながら金髪の男子が姿を現す。
「逆?」
 トレイをそばにあったテーブルに置くとハザーは青い目であたしの方を見据えこう言った。
「この世界を滅ぼしてほしいんです」
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