陽のあたる場所で

BACK | NEXT | TOP

  01:始まりは雨  

 痛い。体中が痛い。
 苦しいよ。誰か助けてよ。
 なんであたしだけこんな思いしなきゃならないの?
「……っ!」
 体中を襲う激痛に体をくの字におる。
 雨が容赦なく体温を奪っていく。
 ……あたし、ここで死ぬのかな?
 朦朧(もうろう)とした意識の中そんなことを考える。
 まあ、いいか。こんなろくでもない人生さっさと終わらせよう。

 パシャン。

 バイバイ、あたしの人生。

 パシャン。

 今度はもっとましな奴に生まれかわろう――

 意識を闇にゆだね目をつぶる。
 これで全てが終わるはずだった。あの手さえなければ。

「…………?」
 背中にあてられた確かな感触。これは――何?
 うっすらと目を開けるとそこには人の顔があった。
 金色の髪に青い目。視界がぼやけて表情までは見えない。
「誰……?」
 それだけ言うと今度こそ意識を闇にゆだねた。



 目を開けると、そこはベッドの上だった。
「…………?」
 一体ここはどこなんだ? なんであたしはこんなところに寝ているんだ?
 上半身を起こし、ベッドを、周りを、自分の服を見て――硬直する。
 服は綺麗に脱がされていた。正確には上半身だけ。胸には包帯が巻かれている。幸い周りにはだれもいなかったから見られることはなかったけど。
 誰だ、こんなことをした奴は。
 そう言ってやりたかったけど相手がわからない以上仕方がない。体に毛布を巻きつけベッドから離れる。
「痛っ……!」
 歩くたびに体中が悲鳴をあげる。どうやらこれは夢ではないらしい。
 早くここから離れないと。人が来たら大変だ。
「よかった。気がついたんだ」
 突然わきあがった声に体をこわばらせ振り返る。そこにいたのは中肉中背の男子だった。
「そんなに警戒しなくても。とって食いはしないよ」
 藍色の髪に青い目。見かけはあたしと同世代、もしくは年下に見える。
「……あんたは誰?」
「オレ? オレはリザ。リザ・ルシオーラ」
「……服を脱がせたのはあんた?」
 毛布をきつく巻きつけながら男をにらみつける。でもむこうはなんのその。肩を軽くすくめるとあたしの方に近づいてくる。
「脱がせたって人聞き悪いなぁ。あのままだったら風邪をひいてたよ?」
「誰も頼んでない」
 むしろそのままにしておいてほしかった。そうすれば楽になれた。
「目的は体? だったら悪いけど――」
「あいにく。そういうのは間にあってるよ。それに君を助けたのはオレじゃない」
 苦笑しながら男が言う。
「じゃあ誰が」
「うん?」
「誰がそんな余計なことをしたんだ」
 巻きつけていた毛布をこれでもかというくらいきつく握りしめる。
 ほっといてくれたら楽に死ねたのに。こんな痛みを思い出さずにすんだのに。
「余計なことをして悪かったですね」
「!?」
 目の前の男のものとは違う別の声に再び体をこわばらせる。
「はじめまして。俺が余計なことをした人物です」
 それが、あいつとの出会いだった。
BACK | NEXT | TOP
Copyright (c) 2006 Kazana Kasumi All rights reserved.