EVER GREEN

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 第三章 海の惑星『霧海(ムカイ)』  

 目の前には二人の女性がいた。
 ……いや、違う。これはレプリカだ。偽物に過ぎない。
 なぜなら本物は――
「アル」
 呼び止める声にはっとした。
「いい加減そこから離れたらどう?」
 そこには自分が唯一認める友人の姿があった。
「……そんなふうに見えましたか?」
「ああ。しっかりね。そんなに真剣に見入ることもないだろ? ……まあ気持ちはわかるけど」
「すみません」
 慌てて笑みの形をとる。けれどもそれも笑みに見えたかどうかはわからない。
「まだ五年しかたってないだろ? まだまだこれから――」
「もう五年です」
 やはり偽物とはわかっていても、人間そう簡単にわりきれないものらしい。リザに言われた後もその像から離れることができなかった。
「いい加減意地はるのよせよ。見ているこっちが痛々しいよ」
「それはあなたがお節介だからでしょう?」
「悪かったね。オレはそういう質なんだよ」
 親友が苦笑いを浮かべる。
「……お前には本当に悪いと思っている」
 像の一部に手をかけ目をつぶる。
「待てなかった。俺は人間なんだ。お前達とは違う。少しでも早くあの人を――を目覚めさせたかった。……逢いたいんだ」
 久しぶりに口から出たあの人の名前。
 最後の最後で本当に厄介なことを押し付け眠りに入った貴女(あなた)。はじめは嫌いだった。むしろ憎んでいた。なのに――
「アル、地がでてるぞ」
「大丈夫ですよ。あなた以外の前ではヘマはしませんから」
さすがに今は周りが多すぎて地を出すことは少なくなってしまったけれど。
「でも、いつまでもこのままと言うわけにはいかないぞ? あの子だって馬鹿じゃない。全てを悟られるのも時間の問題だ」
「わかっています」
 だからこそ――
「…………」
「どうした?」
「皮肉なものだ。五年もたっているのに俺一人ただの人間なんだからな」
 あの頃は我が身を呪った。全てを否定して生きていた。だからこそ、あの時――
「物思いにふけるのは勝手だけど、一人で抱え込むのはやめろよな。あと道化を演じるのもな」
 友人だけあって、的を得た返事が返ってくる。
「なんだってやってやるさ。あの人に逢うためなら。周りになんと蔑まされようが構わない」
 これは嘘偽りのない本心。これだけは、決して曲げるわけにはいかない。
 今の俺の姿を見た時、貴女は何を思うだろうか。
 真っ先に返ってくるのは罵声? それとも――
「……上から物音がしない?」
 苦笑しながらリザが視線を上の方へ向ける。
「きっとあの子達が来たんでしょうね。手紙を残していきましたから」
 目を開け、いつもの笑みをはりつかせる。弟子曰く『エセ笑顔』らしいが、あながち否定もできない。
「さあ、出来の悪い弟子を迎えに行くとしましょうか」
 そう言うと、階段をのぼった。


 案の定、弟子は苦戦していた。
 本当に大変だったのだろう。床に座り込み立ち上がるのもやっとのようだった。
「すみませんが、皆さんはここで待機していてください。師匠と弟子の話がありますので」
 不満顔の弟子を半ば無理矢理地下へ連れこむ。
「……あなたは何も感じないんですか?」
 そう言うと、彼は不思議そうな顔をしていた。
 ……やはり覚えてはいないんだな。
 無理もない。無理もないが――やるせなかった。だからなのだろう。つい口をすべらせてしまった。
「悔しかったら強くなりなさい。あなた自身の強さを見つけるんです」
 この子は強くならなければならない。肉体的にも、精神的にも。そうならなければ、いずれ自分で自分の身を滅ぼすことになってしまう。
「……絶対、強くなってやる。なってアンタを見返してやる」
 弟子から返ってきた言葉はあまりにも弟子らしくて、あまりにも変わらなくて見ている方の胸をつまらせた。
「せいぜい頑張ることですね。道のりは遠いですよ」
 そう言って笑いかけると、失礼なことに弟子は気味の悪そうな顔をしていた。

 ――見ているだろうか。
 俺は――私はこうしてここにいます。
 貴女との約束もちゃんと果たしていますよ。だから、私との約束も果たしてほしい。

 いつか、私と――



 はい。本当にわかりません。
 「EVER GREEN」3−10、11の裏側ですね。
 師匠とお兄ちゃん。初めてのアルベルト視点……って、お前は誰だ(汗)。
 これ、本編で公表してもわかるようになるのは一体いつのことやら。
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