SkyHigh,FlyHigh!

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  Part,5  

「このような時期に呼びつけて悪かったな」
 この世界ではそう珍しくない、栗色の髪に青い瞳を持つ中年の男性が語りかける。
「そなたを呼び出したのは他でもない。我が后(きさき)の妹の行方を捜してほしいのだ」
「妹姫……ですか?」
 ここはリネドラルドの城内。ショウは自分と同じ、栗色の髪を持つ男性――王と言葉を交わしていた。
 それなら散々捜していた。それはもう物心つく時から。でも見つからなかった。
「無理だと言うことは重々承知しています。せめて元気な姿を一目だけでも見たいのです」
 王の隣で上品な金の巻き髪を束ねた女性――王妃が言う。
「そのような任をなぜ私に?」
「荷が重いか?」
「いえ。なぜ私のような若輩者に任せるのかと思いまして。腕のたつ者なら他にもいるでしょう?」
 実際そうだった。ショウは14歳。城を出入りするには年齢が幼い。運び屋という仕事をしているのでそれなりに腕はたつが、それでも王の勅命を受けるにはまだ幼すぎる。
「『フロンティア』という言葉を知っているか?」
 それまで隣で話を見守っていた王が口を開く。
「誰でも知ってますよ。おとぎ話でしょう?」
「それが本当にあるとしたら?」
「!?」
 そんなものが実在するのか? ショウはそれに答えるでもなく、ただただ王を凝視していた。
 フロンティア。未知なるもの。
 それは宝石とも、人の名前とも言われているが実際は定かでない。色々な話に出てくるものの数が多すぎて特定できないのだ。
 唯一の共通点は、願いをかけた者の望みをかなえるということ。
 しかし所詮はおとぎばなし。語り継がれることはあっても実際に探そうとする人はいなかった。一部を除いては。その一部も金持ちや探検家ぐらいなものだが。目の前の人物は当然前者に入る。
 俺に金持ちの道楽を手伝えって言うのか?
「私にフロンティアを探せと?」
 そんな内心を表に出さないように言う。
「難しいということはわかっている。だが后(きさき)の夢にかけてみたいのだ」
「夢……?」
「先日、妹の夢をみたのです」
 王の話を引き継ぐように王妃が語りかける。
「あの子は幸せそうでした。黒髪の男性と小さな女の子にかこまれて。あんな笑顔は見たことがありません」
「…………」
「夢の終わりに、あの子は言いました。『フロンティアを。それが私とあの子をつなぐ鍵だから』――と」
「…………」
 普通なら、ただの夢だと笑うところなのだろう。
 だがショウは笑えなかった。なぜならカザルシア王家の女性には夢見の力があると言われていたから。
 夢見の力。言葉通り、いずれ現実におこる、もしくは過去に実際に起きた出来事を夢を通じて知る能力。不確かなものではあるが事実である(もしくはこれから起こりえる)確率は非常に高い。このことは城内に携わる人物しか知ることができない。なぜショウが知っているかというと単に父親に聞いていたからなのだが。
「『フロンティア』を探し、ひいては妹姫の行方をつかめと?」
 まあ姫と言っても王妃の妹なのだから実際はかなりの年齢になるのだろうが。
「そうだ」
 相変わらず無理難題を言ってくれる。
 それとも、そう言っているのは自分を信用してくれていると思ってもいいんだろうか?
「『あの子』が誰のことを指すのかはわかりません。夢に出てきた男性と女の子。おそらくそれは……」
 三人の間に沈黙がはしる。
 一人は誰を指すのか。それはこの国の人間なら誰でもわかっていた。わかっていても、誰も口に出そうとはしなかったが。
「あなたに捜してもらうのが一番確かだと考えたのです」
王妃の一言が重い沈黙をやぶる。
「……それも夢見の力ですか?」
「いいえ、これはわたくしの意思です。アスラザの息子であるあなたなら……」
 アスラザ――父親の名前にわずかに反応するも、しばし目を伏せる。
「わかりました。その任、うけたまわります」
 結局こうすることしかできなかった。
 王にはさんざんお世話になっている。その王からの依頼を断れるはずがない。
「半年、半年たったら戻ってくるのだ。どのような結果でもかまわない」
「はっ」
 二人の目の前で礼の形を取る。
「……悪いな。子供のお前にこんな役目を押し付けるなんて。まったくひどい大人だな」
 急に口調を変え、王――栗色の髪の男性が苦笑する。
「やめてください。周囲の人間が見たらなんと言うか……」
「だから人払いをさせたんだ。友人の息子と話をして何が悪いんだ?」
 青い瞳がいたずらっぽく笑う。
「それでも、私……俺はただの臣下の一人にしかすぎません。でも……御心使いありがとうございます。おじさん」
 ショウはこの王が好きだった。小さい頃はお忍びで何度も家に遊びに来てくれた。
『父の昔からの親友』小さい頃はその言葉を信じて疑わなかった。もちろん、それは嘘ではない。ただその正体が尋常ではなかったのだが。
「ショウ、実はあなたにもう一つお願いがあるの」
「は……?」
 これには予想外だったらしく、目をしばたかせる。
「シェリア、こちらへ」
「はい、叔母(おば)様」
 明るい声とともに二人の少女が姿を現す。
 金色の髪に明るい茶色の瞳。漂う気品は確かに王家独特のものだった。……身に着けている服は王族にしては味気なさすぎるし、瞳の色は元気すぎるようではあったが。
 その傍らにいるのは同じく明るい茶色の瞳に焦げ茶色の髪をもつ少女――
「……!?」
 彼は絶句した。
 なぜなら少女の一人が自分が数時間前まで一緒にいた女の子だったから。
『なんで……?』
 期せずして二人の声が重なる。
 どうして宿にいるはずのシーナがこんなところにいるんだ? 迷子になったとしても、これはあんまりだろう?
「そなたの知り合いか?」
 王の言葉で現実に戻る。
「はい。ここに来る途中で知り合ったんです。もしかしたら彼女の記憶を探す手がかりがつかめないかと思いまして……」
 戸惑いながらも正直に答える。
「そなたは記憶をなくしているのか?」
 青い瞳を今度は視線をまりいの方に向ける。
「えっと……」
 急に話題をふられ、まりいは困ってしまった。
 自分は記憶喪失ということになっている。それはわかった。でもそれを目の前の人に言っていいの? そもそも、自分がこんな所にいること事態間違いなんだ。なんで私、お城の、王様の前にいるの?
「叔父(おじ)様、それはあまりにも失礼ですわよ? この子が困ってますわ」
 もう一人の少女が先ほどの王と同様、いたずらっぽく笑う。
「そうだな。ぶしつけだった。非礼をわびよう」
 王もそれに苦笑で答えると素直に頭を下げる。
「え、あの……。そんな、あやまらないでください」
 まりいはまたもや困ってしまった。王と呼ばれる人物がこうも簡単に頭を下げるとは思ってもみなかったのだ。彼女にだって王様がどんな人物かということの予想はつく。とは言っても『威厳があって偉そう』くらいのものだが。
「また城を抜け出していたのか?」
 苦笑をくずさないまま、青い目がまりいの隣にいる少女に問いかける。
「ええ。だって退屈なんですもの。それにここにいられるのも残りわずかなんですし」
 まりいの隣にいる少女。たしか『シェリア』と呼ばれていた――は臆することなく笑顔で答える。
「まったく困ったものだ」
「誰かにそっくりですわね」
 笑いながら、王だけでなく王妃までもが苦笑の色を濃くする。
「さて。彼女がなぜここにいるのか。それを説明してもらおうか、シェリア」
 シェリアは、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせるとこう言った。
「わたくし決めましたの。護衛はこの方にしていただきますわ!」
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