Part,1
ジリリリリ……!
「…………」
明るい茶色の瞳が眠たそうにしている。
ジリリリリ……!
「…………」
まだ眠そうだ。
ジ!
寝ぼけまなこのまま、目覚まし時計を止める。
「…………」
それでもまだ眠そうだ。
「……い!」
誰かの声がする。
「まりい!」
女の人の声。
「……はぁい」
こげ茶色の髪に茶色の目。
少女は、まりいは目を覚ました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
椎名まりい。十四歳。焦げ茶色の髪と明るい茶色の瞳をもつ中学三年生だ。
「早く行きなさい。学校に遅刻するわよ」
台所から再び女の人の声がする。
「まだ時間あるから大丈夫だよ」
と言いつつも、本当に遅刻しかねないので靴を履き、通学用カバンを肩にかける。
「行ってきます」
まだ家の中にいる家族にそう言うと、ドアを開ける。ドアの前には、まりいと同じ年頃の髪の短い女の子がいた。
「まりい、おはよっ」
「由香ちゃんおはよう」
佐藤由香。まりいの友達である。
「いつも言ってるでしょ。もっとシャキッとしなさいよ」
「うん……」
「ほらほら、言ってるそばから。そんなんじゃ今日の体育の授業バテるわよ?」
「それは大丈夫だよ」
「はいはい。とにかく学校行くわよ。ほらっ。急ぐ!」
そう言って、掛け声と共にダッシュする。
「まってー!」
それにならい、まりいも慌てて後をついて行った。
「まりい、そこっ!」
「はいっ!」
バシッ!
ボールがコートに炸裂する。
今は四時間目、体育のバレーボールの授業中。
「椎名さんって体育になると性格かわるよねー」
「ほんと。いつもはおとなしいのに」
まりいは、見かけとは裏腹に運動神経がいい。普段はおとなしいだけに、周りからすれば余計にギャップを感じてしまうのだろう。
「そんなことないよ」
「そんなことあるって絶対」
クラスメートの一言に周りがうなずく。
「ほんとにそんなこと……」
ズキッ。
「……っ!」
『?』
まりいの一瞬見せた苦痛の表情に周りが怪訝な顔をする。
「授業終わるぞー。みんな整列!」
が、ちょうどのタイミングで体育教師が号令をかける。
「集合だって。早く行こうよ。」
さっきの表情を打ち消すように、クラスメートに呼びかけると、すでに集合しているクラスの輪の中にかけていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まりい、今日のバレー大活躍だったよね」
「うん! 体育ならまかせて」
学校の帰り道。いつものように由香と帰路につく。
「これが男子の前でもできるといいのに」
由香のついたため息に、まりいが硬直する。
まりいは対人恐怖症、特に男子に対して――がある。そうなったのにはちゃんと理由があるのだが、それは後ほど話すことにしよう。
「まりいは、もっと多くの人と接しなきゃだめね。そしたらちゃんと話せるようになるでしょ」
「あははは」
由香の言葉も当たっているだけに苦笑せざるをえない。
「それはそうと、体は大丈夫なの? 確かに大活躍だったけど、平気なの?」
友人が心配そうな顔をする。
「やだ、由香ちゃんそれこそ心配しすぎ……」
ズキッ!
「……っ!」
数時間前と同じ感覚に体をくの字におる。
「まりい?」
「……大丈夫。すぐ良くなるから……」
薄れ行く意識の中、まりいは地面に崩れ落ちた。