世界の果てで会いましょう

第4話「夢と消えて」

「さて。ここで突っ立ててもしょうがないし、雨風しのげそうな家を探して今日はここに泊まろう!」
 さらりと言い放った夜に、一同は思わず目を丸くした。
「・・・夜、本気か?」
 珍しく真顔で問う朝に対して、夜はさらりと、
「うん。」
 答えた。しばらく沈黙が彼らの間におり・・・
「俺、やなんだけど。」
「私も・・・ちょっと抵抗が・・・。」
「夜ほどみんな神経太くないぞ。」
 ミルラ、ユエ、朝の順に反対の声が上がる。みんなに否定されて一人いじけた顔をする夜だが、すぐに何かを思いついたようで、
「じゃあ、ここにいる人たちを消せばいいじゃんか!」
 明暗とばかりに顔を輝かせて手をたたいた。
「誰がするんですか?」
ユエの突っ込みに、
「ミルラ。」
 にっこり笑顔つきで即答する。それに即座に反応したのはミルラ・・・ではなく、朝だった。
「お前、分かっていってるのか!?まぁ、確かに今はあいつの時間だけど。」
 ミルラやゆえに聞こえないよう、口をわずかに動かしていう。
「分かってるよ、朝。」
 それに倣い、夜も同じように返事を返す。
「丁度いい機会でしょ?ミルラがどれくらい目覚めているのか見極めるには。場合によっては、“泉”に進路をとったほうがいいし。」
 ほんの少し間をあけて、朝はまた問う。
「・・・失敗したら?」
「その時は僕がやるよ。」
「・・・勝手にしろ!」
 一見、終始無言のように見えた二人の視線は、そんな会話がなされていたことを、厄介事を押し付けられてパニックで頭が真っ白になっていたミルラには、到底気づくことができなかった。




「まぁまぁミルラ、落ち着いて。街の中心でこの人たちは死んでいるから、あるべき場所へ行けとか強く思ったらできるから。」
 こんなことを押し付けたのはお前だろうが。思わずそういいそうになるが、にらむ程度にし、ミルラは怒りを抑える。どうせ、旅慣れていないミルラにとって、途中で放り出されれば生きていくことが困難だ。従うしかない。強く念じる。そういわれて街の中心に立っている――もとい、中心地のところに勝手に棒を立てて、それに縛りつけられている――が、それがどう効果があるのだろうか?まったく持ってミルラには理解できない。ついてい来るんじゃなかったと、今更後悔しながら、ひとまずミルラはいわれた通り、強く念じた。おかしな感覚が、彼を襲う。まるで、全身の力を奪い取られ、自分は枯れ木のようになっていくような・・・・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 しらずミルラは叫び、いつの間にか意識を手放した。
 見ていたユエは、心配そうな表情になり、夜へと一瞬視線を送るが、すぐにミルラの元に駆け寄った。その一連の動きをただ無表情で見守っていたのは夜とゥ。
「目覚めてはいる。けど、まだ無意識下のうちに自分の近くにいる人間に影響を与えていただけ・・・ってくらいのもんか。」
 淡白に言い放つ朝。夜はそれ以上にそっけなく一言言った。
「“泉”行きだね。」
 そういうと、無表情、無言の仮面をかぶり、ミルラの倒れているほうへ歩く。
「どうするつもりだ?今のであちらさんはこっちを盗賊か何かと認識したらしいぜ。余計に厄介だぞ。」
 朝の問いに、夜は立ち止まり、
「僕が片付ける、そうも言ったでしょ?」
 わずかながら緊張した面持ちで返答すると、ユエの手によって縄から開放されたミルラの側まで向かった。


 太陽が沈む。わずかに、瞳に悲しみの色を映し、朝は太陽を名残惜しげに眺めた。ふと心配そうな視線に気づき、振り向けばユエの姿。
「お嬢・・・大丈夫。気にするな。」
 そういって、彼女の頭を軽くなでる。くすぐったそうな彼女の側には、ミルラが横たわり、眠っていた。
「ああ、お嬢、次いくとこ決まったぞ。泉だ。」
「泉って・・・あそこですか?」
「ああ、あそこだ。・・・そろそろ始まるな。静かにしておくか。」
「はい。」
 二人の視線は夜へと注がれる。夜・・・暗闇を支配するもの。それは、彼そのもの。
「来ぬ朝日、来ぬ夜を求める者達よ。未来のないお前達は、あるべき場所へと行かねばならない。」
 劇で声を張り上げる役者のように、夜の声はよく響く。
 その言葉に、透明なものたちはざわめき、一斉に夜に襲い掛からんと飛び出す。だが夜の様子はひどく落ち着いたものだった。左腕を空へと上げ、
「すみれの色、舞い降りる時、無へ帰れ。」
 夜が呪文のようなものを言い終えた時、街全体が包み込むような光に覆われた。光はしばらく続いたが、やがて消えた。




 ミルラが目覚めた時、彼が目にしたは、何もない荒野。ここに街がかつてあったことなど、夢のように消し去られていた・・・・・・。
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