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● Fairy tail  --- 第三話 三人よれば……? ●

「んー!」
 イスから立ち上がり、大きくのびをする。
「終わった終わったぁ。やっと開放されるー!」
「あんたは気楽でいいわよねー。ヤマでも当たった?」
 呆れ顔で友達がつぶやく。
「そんなことあるわけないじゃん。ただ終わったからほっとしてるだけ」
「あっそ」
 テストが終わった時の開放感。これほどすがすがしいものはない(断言)!
 季節は夏。テストも無事に終わり、今日はのんびりとくつろぐことができる日。
「どうでもいいけど美由希、アンタにお客さんが来てるけど?」



「それで、結局のところオレは何を手伝えばいいんすか?」
 校門の前には、むっすりとした表情のゆき君がいた。彼の方もテストだったらしく、この前とは違って自分の学校の制服を着ている。
「なんでここに呼び出すんすか」
「だってアタシゆき君の家知らないし」
「知ってたら家までおしかけるつもりだったんかい!」
「いくらなんでもそこまではしないよ。前もって連絡してから行くし」
「似たようなもんでしょーが!とにかく、ここに呼び出すのはやめてください。タダでさえオレ目立ってるんだから」
「そのわりにはナンパしてたみたいだけど?」
 そしてことごとく失敗してたみたいだけど。その一言は本人の名誉のため言わないことにした。
「……見てたんすか」
 ゆき君はがっくりと肩を落とした。
「あの虫は? そいつがいないと話にならないじゃないっすか」
 肩を落としたまま、アタシに問いかけてくる。
「ユキのこと? ユキなら……」
(虫じゃねーっ!)
「痛っ!」
「……そこにいるみたい」
 ユキの蹴りが、ゆき君の頭を直撃する。
「おい虫!人がせっかく助けてやろうってのにその態度はなんだ!」
 頭を押さえながら、ゆき君がユキに怒鳴りつける。あーあ、せっかく二人を仲直りさせようと思って連れてきたのに。
(誰も助けてくれなんて言ってねー! 第一おれは虫じゃねえ、妖精だ!)
 ユキがそう言えば、
「羽があるから虫じゃねーか。今度殺虫剤でも持ってきてやろうか?」
 ゆき君がそう言い返す。あーあ。これじゃ先が思いやられるかも。
(テメー、言わせておけば……)
「ゆき君。どうでもいいけど皆見てるよ?」
「あ……」
 いくら二人(一人と一匹?)で言い合っているとはいえ、普通の人にはユキの姿は見えない。だから今のやりとりも、ゆき君がただ一人でわめいているとしか見えないわけで。
「美由希さん、場所変えません?」
 コホンと咳払いをすると、彼はそそくさと学校を後にした。
「そーだね」
 アタシも苦笑してそれにならうことにした。



「ゆき君って、楠高(くすこう)の生徒だったんだ。だから兄貴のこと知ってたのね」
「いや、先輩とはたまたまバイトで知り合ったんすけど。うちの学校のOBだったんすか?」
「うん。去年までその格好してた」
 シェイクをすすりながら、彼のブレザー――楠木(くすのき)高校の制服をまじまじと見る。
「オレだって美由希さんが二女(ふたじょ)の生徒だって知らなかったっすよ。」
 ゆき君はそう言ってあたしを――二葉女子高校の制服を見てため息をついた。
「知ってたらどうにかしてた?」
「そりゃあ、可愛い女の子を紹介してもらう……」
「やっぱりさっきナンパしてたんだ」
「……美由希さんって、本当にいい性格してますね」
 ため息とともに、彼はテーブルに突っ伏した。
 場所は変わって、ここはいつかのファーストフード屋さん。
 なんでこの場所にしたのかは至って簡単。おなかがすいてたから(アタシもユキも)。
ここなら二人が言い争うなんてことしないだろうし。現にユキは文句も言わずに黙々とポテトを食べている。
「あ、今度からその丁寧口調なしね。どうせ見せかけなんでしょ?」
「見せかけって……まあいいけど」
 苦笑すると、ゆき君はアタシに向き直ってこう言った。
「じゃあ改めて。よろしく。美由希さん」
「こっちこそ。記憶探し、頼りにしてるからね」
 アタシも笑顔で言った。
「さて。まずはどうやって記憶をとりもどすかだよなー」
「そうよね。ユキわかる?」 
(わかってたら苦労するわけねーだろ)
 確かに。
「そーいえば、オレなんでこいつが見えるようになったんだ?」
 ハンバーガーを食べながら、こいつ――ユキを見る。
(テメーが『虫』って言うからオレが頭にきて殴ったからだろ)
「……殴ったら妖精が見えるようになるの? だったらコレぶつけたら記憶戻らないかな?」
 そう言って学校指定のカバンの中から辞書を取り出す。
「そんな重いもん、いつも持ち歩いてんの?」
「そんなわけないじゃない。たまたまよ。たまたま」
 ユキを見つけた時に図書館で借りて、そのまま借りっぱなしにしてたんだよね。
「いいなーそれ。カドで思いっきりやったら気持ちいいだろーな」
 ゆき君が面白そうに体をのりだす。
(そんなことで記憶が取り戻せるなら苦労しない。テメーらバカか?)
 せっかくの二人の提案に返ってきたのは人をバカにしたような冷たい視線だった。
「ショック療法って結構バカにできないのよ?」
(そんなもんで殴られたら記憶がどうこうの前におれが再起不能になるだろーが!)
「虫って生命力強いから、一回くらいどうにかなっても平気なんじゃねーの?」
(テメー、また殴られたいのか!)
「オレは『テメー』じゃないんだよ。ちゃんとした名前がある」
「そうそう。アタシ達には『美由希』と『ゆき』って名前があるんだから。」
「……いや、オレ『ゆき』って名前じゃないけど」
(知るか)
 そう言って、ユキは再び目の前のポテトを食べることに専念した。
「そーいえば、美由希さん、こいつにどんな願い事叶えてもらうの?」
 ユキを指差しながら、ふと真顔になってゆき君が尋ねる。
「え?」
「先輩に聞いたんすよね。『妹は妖精の記憶を取り戻す代わりに願い事を叶えてもらおうとしている』って。一体何?」
「……なんでそんなこと聞くの?」
「単なる好奇心。そこまでして叶えて欲しいことってなんなのかなーって」
「それは――」
「それは?」
「…………」
「美由希さん?」
「いーの、いーの。ささいな願い事なんだから」
 だって言ったら変な顔されそうだし。
「そう言われると気になるんだけど」
「いーの。いーの。気にしないで」
 なんかこう真剣な顔して聞かれても恥ずかしいし。
「そういうゆき君は? どんな願い事するつもり?」
「へ? オレも叶えてもらえるの?」
(なんだよそれ、聞いてねーぞ!)
 二人の声が、見事に重なった。
「アンタの記憶を取り戻そうとしてるのよ? 感謝の気持ちをこめて、このくらいサービスしなさい」
(テメーが強引なだけだろーが!)
「でも一つだけね?たくさんだとユキが疲れちゃうから」
(当たり前だ! ……って、なんでおれがテメーの言うこときかなきゃならねーんだ!)
「……さすが先輩の妹。先輩に負けず劣らずのゴーイングマイウェイっすね」
「ゆき君何か言った?」
「なんでも。そーだな……じゃあ可愛い女の子をオレに紹介して!」
(出来るか!)
 目を輝かせて言うゆき君に、ユキはすっかり呆れかえっている。
「可愛い女の子なら目の前にいるじゃない」
『…………』
 二人の沈黙が、見事に重なった。
「何よ? 文句ある?」
 アタシだって華の十八歳。子供の時は『可愛い』ってよく言われたんだから!
(……よくそんなことが堂々と言えるな)
「美由希さん……」
「何?」
「オレにだって、選ぶ権利はある」
 真面目な顔をしてそう言ったゆき君を、問答無用ではたき倒した(もちろん辞書のカドで)。

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