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第七章「沙漠(さばく)の国へ」

No,13 エピローグ

 十月も終わり、十一月にさしかかった。
「バナナクレープ完成!」
 教室に声が響く。
「よし。2番テーブルに」
「手の空いた奴、2番に持っていって」
 ういーっす、と、教室に体育会系ノリの返事が響きわたる。
「大沢君、飾りつけこれでいい?」
 と聞かれれば、
「うん。それでいーよ」
 と答え、
「師匠(せんせい)、どうっすか」
 と皿を差し出されれば、
「甘い。砂糖もっとひかえて」
 とダメ出しをする。
「えー。でも女の子にはこれくらいがいいよ?」
「じゃあ女子に聞いてみて。オレはカレーを作る」
 そう言うと、今度は別の調理にとりかかる。

 文化祭は十一月のはじめに行われた。
 一年六組の出し物は予定通りクレープ屋。クレープ屋と言っても営業組や調理組と色々別れるわけで。オレの場合は予想通りと言うべきか、何と言うべきか調理組に、かつ取締役という名誉なんだか不名誉なんだかわからない役を押しつけられた。
「こんなもんだろ」
 煮込んだカレーに舌鼓。ルーも小麦粉から作り、ひたすら煮込んだ。我ながらよくやったもんだ。
「調子はどう? 大沢」
 クラス委員が声をかけてくる。
「任務完了。いつでもいける」
 そう返すと満足そうにうなずいた。
「準備はできた。あとはこいつを戦場に送るのみ」
 委員長が声をあげると、クラス全員の顔つきが変わる。
「開店!」
 パパンッ!
 クラッカーが勢いよく鳴り、入り口が開く。
 文化祭は順調すぎるくらい順調だった。学校以外の人も来るから客層は老若男女様々。客寄せには目立つ奴らを採用し、料理もまずまず好評。何事も準備は必要だよなと改めて実感させられる。
「ごくろうさん」
 肩をたたかれてふりむくと、オレと同じエプロン姿の委員長がいた。
「大沢って実は統率力あったんだね。いつも以上に輝いて見える」
「ほっといてくれ」
 アンケートに書いたドライカレーは却下。カレーはカレー、クレープはクレープで出そうということに。
「クレープの方は?」
「順調、順調。お互い死力をつくして戦いましょう」
 戦場にでも行くような口調でにっと笑うと、委員長は自分の分野へ戻っていく。それを見ながら、ぼんやりと先日のことを考える。
 諸羽(もろは)から借りた剣は、そのままオレが引き受けることになった。本人曰く、その方が色々と都合がいいらしい。
 『剣』とは、文字通り世界をまたにかけた謎の鍛冶屋。
 剣から生まれたのは、時代がかった喋り方をする馬――もとい、土の精霊。
 地球人に合うのは地属性。
 土と風の精霊は相性が悪い。
 それが今回でわかったことだった。
 付け加えるなら、肉体的にも精神的にもオレはまだまだだという事実。まあ、沙漠(さばく)をこえるかたわらで文化祭をやってるのも事実だけど。
 ちなみに同じクラスのショウはというと、
「ノボル、次はできたのか?」
 黒づくめに蝶ネクタイ。裏方のオレとは違い、こっちは完璧に表舞台、ウェイターだった。
「ごらんの通り」
 できたばかりの品をカウンターの上に置くと、なれた手つきでトレイにのせて運んでいく。『お待たせしました』と料理を置くその姿はなかなかサマになっている。
「あいつ、場慣れしてるよなー」
 ショウと同じく営業組の坂井が腕をくんでつぶやく。器用な奴は何をやらせても器用ってことか。
「お前もあれくらいできりゃモテるのに」
「るせ」
 悔しいけど表舞台よりも料理してる方が性にあってる。認めたくはないけど、オレは根っからの裏舞台側の人間らしい。
「あっ、ハザー先生!」
 女子のあげた黄色い声に一斉が振り向く。
「順調のようですね」
 人のよさそうな爽やかスマイル。全員に――とりわけ女子にそれをおくると、途端に場内が色めきたつ。
「どうしたんですかぁ?」
「いえ、皆さんの様子が気になりまして」
 臨時教師が休日出勤するな。
「先生も食べていってくださいよ」
「気持ちは嬉しいんですが、他のところにも伺いたいんです」
 だったらわざわざ来るな。
「大沢君も頑張っているようですね」
「そうそう。こいつキャラすっかり変わってるし」
 オレの質問になんでお前が答える、坂井。かつ指をさすな。
 そのうち『営業早くこいよー』という声が聞こえ、坂井はいなくなってしまった。
「何しに来た」
 ジト目でにらんでも英語教師は涼しい顔。
「教師が文化祭を楽しんではいけないんですか?」
 アンタは本当に文化祭を楽しもうとしているのか。
「学校が終わったらいつもの場所でやりますからね」
 周りに人がいないのを確認すると耳元でささやく。
「帰り遅くなるんですけど」
「強くなりたいんでしょう?」
 そう言われれば押し黙るしかなく。
「手は抜きませんから」
「望むところ」
 半ばヤケクソで言い返すと、
「くれぐれもおろそかにしてはいけませんよ。両方ね」
 いつものエセ笑顔を貼りつけたまま、極悪人は去っていった。
「んなこと、言われなくてもわかってるって」
 少しはまともになったと思ってても、実際は井の中の蛙で。
 悩むこと、考えることはたくさんあっても前に進むしかなくて。そのためには日々精進あるのみで。
 結局、オレのやってることって地球でも空都(クート)でも変わんないんだよな。
 今さらながらの結論に、人知れずため息をつく。
「大沢、次まだ?」
「今作る!」
 皿を片手に声をはりあげる。

 沙漠をこえる日は、すぐそこまで来ていた。
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