EVER GREEN

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第五章「夏の日に(後編)」

No,11 不思議の館で(中編)

 目を覚ますと、そこは真っ白な世界だった。
 って――
「昇」
 目の前には金髪に青い目をした女がいた。確かアンタは――
「シルビア!」
「ええ」
 そうだ。あの二人は、シェリアと椎名はこの人に似てたんだ。オレは、夢の中でこの人に『時の管理者』に会ったんだ。
「なあ、教えてよ。なんでオレはアンタの夢を見るんだ?」
 そして、オレはこの人に会ったような気がする。こことは違うどこかで。
「それは、あなたがあの方達にもっとも繋がりのある人だから」
 あの方達? 繋がり? わけがわかんないんですけど。
「あなたの一番身近にいる人です」
 って言われても。
「あなたとは、こうして会う機会が増えていくでしょうね。お願い昇。あの人達を解放してあげて。わたくしはもう大丈夫だから」
 相変わらずオレの言い分を無視して勝手なことばかり言うと、時の管理者は儚(はかな)げに微笑んだ。
『何が大丈夫なんだよ! どう見ても辛そうじゃないか!』
 そう言いたかったけど言えなかった。なぜなら、またまどろみの中に引き込まれてしまったから。
 後にはまた、変な記憶。


 あたし、これからどうすればいいのかな。
 ねえ、――、あたし――
 あんたっていつも笑ってるわよね。怒ったり悲しんだりしたことってあるの?
 あんたなんか大っ嫌い!


 おれ、一人なんだ。
 母さんが死んだんだ。
「…………」
 みんなの前じゃ平気なふりしてるけど、本当はさみしいんだ。
 家に帰っても、誰も『お帰りなさい』って言ってくれない。
 母さん、おれ一人だよ。一人じゃ何もできないよ。
 父さん、泣いてた。
 おれがいけないんだよね。おれがワガママ言ったから。だから――
「……め、ろ」
 そこに行けば、さみしい思いをしなくてすむの?
「……やめろ」
 そこに行けば母さんに逢えるの?
 だったら行く! お願い! そこへつれていって――
「やめろーっ!」
 つれていって。おれはどうなってもかまわないから。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「大沢っ!」
 目を開けるとそこには諸羽(もろは)がいた。
「よかったぁ。戻ってきたら大沢が倒れてるんだもん。どうしようかと思った。はい」
 そう言ってポケットからチェック柄のハンカチを手渡す。
「なんだよこれ?」
「目、ふいたほうがいいと思うけど」
 この前と同じく。今回もしっかり目元はぬれていた。
「……っ!」
 慌てて目元をぬぐう。
 泣き顔を見られるってのは気持ちのいいもんじゃない。ましてや女子の前だとなおさらだ。まあ男だって嫌だけど。
「このこと誰にも――」
「言わないよ」
 きっぱりと言われ、言い返すこともできない。ここは諸羽の言うことを信用しよう。
「なんでもどってきたのさ? 結界まではって来れないようにしたのに」
 やっぱりこいつの仕業だったのか。どーりで通れなかったはずだ。
「……もしかして大沢、時空転移使った?」
「いや、だってお前さっき尋常じゃなかったし、あのままじゃ目覚め悪かったし、つい」
 ジト目でにらみつけられタジタジと返事する。本当は使ってみたかったという好奇心もあるけど。それはあえて伏せておく。
「まあボクからは何も言えないけど。でも多用したら大変なことになるから気をつけてね」
「はいはい」
 もしかして副作用ってこのことだったのか? だったらあんな恥ずかしい副作用は二度とごめんだ。
「わざわざ戻ってこなくてもいいのに。せっかく人が気をつかってあげたのになー」
 オレには聞こえてないと思ってるんだろーけど、そのつぶやきはしっかり聞こえている。オレだってこんなことになるとは思ってなかったっつーの。第一、本当に気をつかうならここに来るな。
「ボクがここに来たのはゲートの気配を感じたから」
「ゲート?」
「大沢達は時空転移を使ってここに来たっしょ? それが未完成だってことはこの前言ったよね。簡単に言えば出口のない迷路みたいなものだってこと。
 だから元にもどりたい時は出口を補う鍵――ゲートが必要なんだ。だからそれを探してたんだけど。
 ……見て、これ」
 そう言って錫杖(しゃくじょう)を取り出す。そーいえば、さっきそれを使って椎名を元にもどしたんだったっけ。
「前にも言ったよね。これはね、竜、つまり大地の力によって作られたものなんだ」
「竜って『聖獣』ってやつの?」
「うん。元々は『竜』の持つべきものだから一時的に預かってるにすぎないけど。ボク達『剣』は聖獣の力を束ねるために存在してる。だからこれを使えるのは当然なんだ。もっともボクはまだ使いこなせてないけど」
「それで?」
「これはいわゆる探知機。これに反応するものは限られてる。ボク達『剣』か聖獣……」
 ここまで言われて諸羽の言いたいことがわかった。
「椎名が……『竜』だっていいたいのか?」
「わからない。でも可能性はあると思う」
「冗談きついって」
 軽く笑い飛ばそうとしたけど、そうするには相手の顔が真剣すぎた。
「……マジ?」
 なんだよ、それ。そんなのありかよ。
「あくまでも可能性だから。大沢。大沢はまりいちゃんが『竜』だったらどうするの?」
「どうって?」
「化け物扱いする? マスコミにでも知らせる?」
 とたん、頭に血が上る。
「椎名は椎名だ! 冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ!」
 いくらなんでもオレそこまで人でなしじゃねーぞ!
「……よかった」
 真面目な顔を少しだけ元に戻して笑いかける。
 よかった? 何がよかったんだよ。
「大沢。大沢は運命って信じる?」
 そう反論する間もなく。今度は今までとまったく無関係の質問をされた。
「……なんで?」
「なんとなく。嫌だったら答えなくていいけど」
 そんなの簡単だ。答えはとっくの昔に出ている。
「オレは運命なんて信じない。ついでに言えば神様なんてもってのほか」
 神様なんてどこにもいない。いて……たまるか。
「……なんだよ」
 返事がないので相手を見るとそこにはきょとんとした顔の諸羽がいた。
「なんか意外。大沢ってそんなこと言わなさそうな気がしてた」
「まあ精霊は信じるけどな」
 なにせ目の前で見て、あまつさえ、そいつと会話なんかしてることだし。
「ずいぶん勝手な言い草だなぁ。思い入れでもあるの?」
「さーな」
 思い入れはある。あるけど、言ったところでどうにもならない。 もし目の前にそんなものが現れたら――ぶん殴ってやりたい。それが八つ当たりだとはわかっていても。
「『剣』はね聖獣の力を束ねる他に術を作ったりそれを見守る役目があるんだ。術を授けてもそれを使うに値しないと判断したら――」
「処分とか、殺したりするわけ?」
「そこまではしないけど、能力と記憶の封印はする。『三つの力を束ねて見守る』それがボクの役目だから。
『『剣』は『剣』であってそれ以外の何ものでもない。それだけの存在だから自分の信じるままに生きなさい』ってご先祖様も言ってるし」
「的をついてるようでわけのわかんねー名言だな」
 けど、こいつの言いたいことはわかってきた。
「ボクもそう思う。ともかく、ボクが言いたかったのは――」
「椎名は椎名。諸羽は諸羽。ついでに言えばオレはオレ。そーいうことだろ?」
 そう言って苦笑する。
 そーだよな。椎名が何者であれ、オレが好きだってことには変わりない。考えてもわからないものは考えないようにしておこう。
「そういうこと。よかった。術を授けたのがキミで」
「おだてたって何も出ないぞ?」
 何はともあれすっきりした。ここを出たら今度こそ椎名に言おう。今度こそ自分の気持ちを伝えるんだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「あーあ。収穫なしかー」
 諸羽(もろは)に付き合ってゲートの気配なるものを探してみたものの結局見つけることはできなかった。
 見つからない以上、長居は無用ってわけで。二人して出口に向かって歩いている。ちなみに結界はとっくの昔に諸羽によって解かれてる。
「それにしても『竜』ってどこにいるんだろう」
「だな」
 時空転移の術を作った時も『竜』の力はまにあわせの錫杖(しゃくじょう)にすぎなかった。本当にどこにいるんだろう。そもそも地球上に存在するのか?
「案外大沢だったりして」
「まさか。オレは正真証明ごく普通の地球人だっての」
「異世界を行き来する時点ですでに『普通の』じゃなくなってると思うけど?」
 もっともなことを言われ、しばらくその場に固まる。
 なんとなくわかってはいた。わかってはいたけど人から言われると悲しいものがあるわけで。
「とにかく。オレは地球人。第一オレには術とかの才能が全然ないって極悪人にも言われたし」
「術の才能は関係ないと思うけど、そうなの?」
「そーなんだ」
 自分で言ってて悲しくなるけど。
 ……あ。
「諸羽、椎名は『竜』じゃない」
 呆然と。ただ呆然とつぶやく。
「なんで断言できるのさ?」
「オレに聖獣の一つを――羽をくれたのが椎名なんだ」
 時空転移の術を作る時に藍色の羽を渡してくれた。
『いつか……話す時が来るから。それまで……お願い』椎名はそう言っていた。
 椎名は『竜』じゃない。竜じゃないけど――
 その時だった。
「グルル……」
 今までに何度か聞いたことのあるうめき声。……なんで?
「今、変な音しなかった?」
「気のせいだ――」
「グルルル……」
 反論するよりも早く。うめき声がミラーハウスにこだまする。
『…………』
 この場に似つかわしくない珍客に、二人硬直してしまう。
「大沢、今の……」
「…………」
 ゆっくりと振り返ると、想像していた通りのものがそこにあった。
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