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第四章「夏の日に(前編)」

No,11 時空転移(前編)

「『我は地の星に生を受けし者。我が名は大沢昇。我が願いは』……えーと」
 机の上で、紙に文字を書いては消し、さらに新しい文字を書きこむ。
「ダメだー。全然ダメ」
 紙切れをくしゃくしゃと丸める。
「難しいよなー。自分で術のセリフを考えるってのも」
 紙切れをゴミ箱に投げ入れると、そのまま机の上につっぷした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「要は術を作るための手伝いをすればいいってことだよね?」
「そーいうこと」
 『剣』――諸羽(もろは)を空都(クート)の皆に紹介すると、これまでのいきさつをもう一度説明した。
「聖獣の力はもう手に入れたの?」
「二つだけ」
 スポーツバックの中から椎名からもらった藍色の羽と、リズさんからもらった青いうろこを取り出す。
「『鳥』と『魚』かー。確かに本物だ」
「当たり前だろ。……って、『魚』?」
「これのこと」
 青いうろこを手にしながら諸羽が言う。
 霧海(ムカイ)の聖獣って魚だったのか。初めて知った。
「『竜』は? 地の惑星の聖獣の力はないの?」
「それだけがまだなんだ。一体どんなものかもわからないし」
 他の三つはなんとか探し出せたのに、竜――地球の聖獣だけは見つからない。手がかりすらもつかめてない。
「仕方ないよね。短期間でこれだけ集められただけでもすごいことだし。これで間に合わせるしかないか」
 そう言ってごそごそと長い棒を取り出す。
 全身は金色で頭の部分には鈴や金属の輪っかがついている。確か偉い坊さんとかがよく持ち歩いてるやつだ。テレビで見たことがある。名前は確か――
「錫杖(しゃくじょう)?」
「ビンゴ。竜と言ったらこれっしょ?」
 一体、これのどこがどーやったら『竜』になるんだ? そうつっこむ前に次の言葉を紡ぎだした。
「これ(錫杖)自体には深い意味はないけど。これには『竜』の力が少しだけこめられてるんだ。本当はもっと別のものがあればそれにこしたことはないんだけど。そこはほら、大沢がいるから。気合いで頑張って」
「それってどーいう意味?」
「大沢は地球人でしょ? 地の惑星の人間には大地の力が備わってるって言うし」
「大地の力?」
「ものに付加効果をつける能力のこと。言い換えれば活力――元気を与える力?」
 そんなものがあったのか。全く知らなかったんですけど。
「あとはボクの力を使えば術は完成するはずだよ。時と場所を超える術。名づけて『時空転移(じくうてんい)』! カッコいいっしょ?」
 確かに響きはカッコイイ。けど、こいつの判断基準って全部『カッコイイ』の一言ですむのか?
「と言うわけで、はい」
 一枚の紙切れを手渡される。
「これが術の始まりの言葉。これに『精霊の契約』を付け足すだけでいい。こっちの世界でもあるよね?」
「『精霊の契約』って?」
「初めて術を使う際の契約の言葉ですよ。慣れれば必要ありませんがね」
「よくわかんないけど、術のセリフみたいなもん?」
「そう考えといていいよ。大沢だけの術を作るんだ。オリジナリティあふれるものを考えといてね」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ――と、現在に至る。
「こんなの考えつくか!」
 考えつかないものはいくら考えても無駄なわけで。
 かと言って、何も考えないわけにもいかず顔を上げると再び机に向かう。
「『オレとシェーラを地球に連れて行ってくれ!』じゃ……ダメだよな。やっぱ」
 そんなんで術が使えるってのも悲しすぎるし。
「『二人を地の惑星へ導きたまえ』……こんなもんかなー」
 思いつくセリフをかたっぱしから紙切れに書き込んでみる。カッコいいセリフを言ったところで術を使うのはオレだし、長いセリフになってもしょーがないしな。
「昇くん」
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるだ。この中から適当に選べばいーだろ。
「…………」
 確かに準備は整った。それぞれの世界の聖獣の力も、剣だってそろった。後は術を完成させるだけ。
 だけど、何かがひっかかる。ものごとがこう簡単にすすんでいいものだろうか。
「……昇くん?」
「……椎名?」
 いつの間にか、目の前に椎名がいた。
「『ダメだー』とか『こんなの考えつくか』って声が聞こえたから。何か考え事?」
 心配そうな表情で聞いてくる。……声に出てたのか、オレ。
「もしかして、この前言っていたこと?」
「そう。術のセリフを考えろって言われたんだけど、なかなかいいのが思いつかなくて。椎名だったらなんて言う?」
「うーん。急には思いつかないよ。昇くんが考えたものがいいんじゃないかな?」
「そーだよな。……あ、もう時間だ」
 時計は夜の10時をまわっていた。いつもなら空都(クート)にいる時間帯。どうやらそうとう考え込んでいたみたいだ。
「じゃあ行ってくる。……もしかしたら、今日ここにシェーラが来るかもしれない。その時はフォロー頼むな」
「うん。いってらっしゃい。こっちのことは任せて」
 何も聞かずに笑って送り出してくれる。それが嬉しかった。
「……よし」
 荷物をスポーツバックにつめ深呼吸。そのまま深い眠りについた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「大沢遅い!」
 一足先についていた諸羽(もろは)が頬を膨らます。首には相変わらず長いスカーフを巻きつけている。
「悪い悪い。セリフ考えるのに手間取って」
 本当は考えすぎて何も思い浮かばなかったんだけど。そこはそれ。気合いでなんとかなるだろ。
「……諸羽?」
 急に真面目な顔をすると指を突きつけてきた。
「一つ確認しとく。いくら全ての力がそろったとは言っても、術を作るということは簡単じゃない。もしかしたら反動で危険なリスクをおうことになるかもしれないけど、それでもいい?」
 ……聞いてないんですけど。そんな話。
「リスクをともなう術を完成させなくても、別の方法でシェーラを地球に連れては行いけないのか? ソードだって何か別の手段を使ってここに来たんだろ?」
 オレの硬直ぶりに見かねたのか、ショウが助け舟をだす。
「ボクの場合はボクの一族にしかできない手段を使ってるから。仮に、できたとしても今までやってきたことを無駄にしたくはないっしょ?」
 まあ、確かに。短期間とはいえこれでも頑張って集めたからな。
「……ここまできたんだ。やれるだけやってみる」
 途中でやめても後味悪いだけだし。なるようになるさ。
「わかった」
 そう言うと、あらかじめ持ってきていた錫杖(しゃくじょう)を使って図形を描き始める。
「この中で術を使える人っている? できれば手伝ってほしいんだけど」
「アタシ手伝う! アルベルトもできるわよね?」
「仕方ありませんね」
 そう言って二人が諸羽の元へ集う。
 そーいえばこの二人って術が使えたんだよな。すっかり忘れてたけど。
「俺も一応使えるけど……手伝った方がいいのか?」
「うん。人手が多いにこしたことはないから」
 へー。ショウも術が使えるんだ。なんか意外。
「わたくしはどうすればいい? 術など一度も使ったことはないが」
「ここの世界の住人なら誰でも使えるはずだよ? 個人差はあるかもしれないけど」
「……そうなのか?」
 シェーラも初耳だったらしく、驚いたように身を乗り出す。
「ちなみに大沢は地球人だから術は使えないから」
 それは何度でも聞きましたよ。いいよなー。日常茶飯事みたいに術が使える奴って。オレも一度でいいからマンガみたいにぶっぱなしてみたい。まあ、遊びじゃないんだろーけど。
「オレは出番なし?」
「大沢はここに立ってて。何もしなくていいから」
 強引に手を引っ張られ、連れられた場所は図形――五紡星の陣の中央だった。
「もしかしなくても、オレって役たたず?」
「そうじゃなくて。ボク達は時空転移――言い換えれば誰も使ったことのないオリジナルの術を作ろうとしてるんだ。その術を使う人物が中心にいないと成り立たないの」
 オレの周りに錫杖と羽、うろこを置きながら言う。
「主役は最後に活躍するってこと。わかった?」
「……一応」
 やっぱり術を作るってそうとうすごいことなんだな。
「師匠さんとシェリアはこれを読んで」
 オレの時と同様、紙切れを二人に手渡す。
「これを読めばいいの?」
「そう。かなり大掛かりなものになりそうだからこれくらいしなくちゃ。みんなくれぐれも持ち場を離れないでね。何が起こるかわからないから」
 ほどなくしてオレを真ん中、五紡星の一つ一つに残りの全員が陣取る。なんだかゲームに出てくる壮大な魔法シーンみたいだ。
「じゃあ始めるよ」
 首に巻いていたスカーフをはずし、両腕にかけなおす。
「『我が名はソード。三つの力を束ねる者。我が声が聞こえるか……』」
「なあ。本当に大丈夫……」
「黙って。そこから動かないで。『我が歌が聞こえるか……』」
 皆が固唾(かたず)をのんで諸羽(もろは)を見守る。その時だった。
 キンッ!
「一体何の儀式? ぼくも混ぜてよ」
 軽い口調に飛び道具。大切な儀式の途中だって時に、一番会いたくない人物はやってきた。
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