EVER GREEN

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第三章「海の惑星『霧海(ムカイ)』」

No,11 師匠の力

「どうしたんですか? そんなに怖い顔をしないでください」
『…………』
 声の主に、全員が無言の視線を投げかける。
「……何はともあれよかったじゃありませんか。こうして皆さん無事にそろうことができたんですから」
『よくない!』
 声の主に全員がつっこみを入れる。
「よくそんなことが言えるな」
「貴様、人をからかうのもいい加減にしろ」
「……いつの間に、そんなに仲がよくなったんですか? あなた達」
『話をはぐらかすな!』
 ちなみに今のハモリはオレとお嬢。
「あっ、あのっ。アルベルトさんお久しぶりです」
 場の空気を察したのか椎名が慌てて声の主――アルベルトにお辞儀をする。
「誰かと思えばシーナではありませんか。本当に久しぶりですね」
「はい。あの時はお世話になりました」
 再びふかぶかと頭を下げる。
「……で? なんでオレ達をここに呼び寄せたんだ?」
 怒りをなんとか抑えつつ話を促す。いくら怒っていてもこのままじゃラチがあかない。
「決まっているじゃないですか。元の世界へ帰るためですよ」
『元の世界へ帰る?』
 再びオレとお嬢の声がハモった。
「……あなた達、本当に仲がよくなったんですね。言葉通りです。この先へ行けば言葉の意味がわかりますよ」
 そう言って極悪人が手招きする。
「すみませんが、皆さんはここで待機していてください。師匠と弟子の話がありますので」
「ふざけるな! これだけ人をもてあそんでおきながら――」
「お願いシェーラくん。行かせてあげて」
「……マリィがそう言うのなら」
 椎名の言葉に、お嬢がしぶしぶうなずく。
「何をしている。早く行け。わたくしは待つのが嫌いなんだ」
 あきらかにとばっちりと思われる視線を背後に受けながら、オレとアルベルトは先に進んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「なんだよ師匠と弟子の話って」
 階段を下りながら極悪人に問いかける。
「さっきも言ったでしょう? 元の世界に帰るんですよ。それに確かめたいこともありましたし」
「それってどういう――」
「お待たせしました」
 オレの話は無視して目の前の人物に語りかける。
「久しぶりー。でも君、本当にこいつの弟子だったんだな」
 藍色の髪に紫の目。さっきまで行動を共にしていた人と表情がなんとなく似ている。
 ここまで言えばもうわかるだろう。そこには『お兄ちゃん』『魔法よろづ屋商会』の会長ことリザがいた。
「アル、準備はいいのか?」
「ええ。すぐ始めてください」
 あのー。そんなに話を進められても全然わからないんですけど。
「……? これって……」
「ああ。それが今回の探し物さ」
 そう言って探し物――二人の女性を指差す。さっきの絵とは違い今度は実物大の彫像だったけど。
「確かめたいことって、もしかしてコレ? コレって一体何?」
「……あなたは何も感じないんですか?」
 さっきのリズさんと同じ質問をされる。
「全然。何もって、オレこれ見たの今日が初めてだぞ?」
「……そうですか」
「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
 そんなあからさまに落胆の表情見せられてもこっちが困るし。
「本当に――」
「アル」
 いつもより幾分強い口調に振り返ると、そこにはいつもより幾分厳しい表情をしたリザの顔があった。
「すみません。先走りすぎてしまいましたね」
「そんなにあせるなよ。あせっていても何もいいことないぞ?」
「……そうですね」
 目の前で意味深な会話が続けられているも当然オレは蚊帳(かや)の外。何がなんだか全然わからない。
「どーでもいいけど早く帰ろーよ。『探し物』も『確かめたいこと』も、もうすんだんだろ?」
「……ええ。でははじめましょうか」
 苦笑すると彫像に向かって剣を構えた。
「一体何する――」
「決まっているじゃないですか。壊すんですよ」
 しごく当然といった顔でアルベルトが言う。
「いや、そのまえにアンタその剣どこで手に入れたんだ――じゃなくて。どう見てもそれって貴重品だろ? 勝手に神殿の物、壊してもいいわけ?」
「この像が魔力の源なんです。このままではこれに込められた力も使えませんからね」
「世界を――惑星を行き来するには膨大な力が必要だってことさ」
 リザが補足説明をする。
「……それで増幅装置のオレが必要だったってわけ?」
「おや、どこでその話を?」
「さっきリズさんから聞いた」
「ならば話は早いですね。いきますよ」
 剣を高く振り上げたその時だった。
《待て! その像を壊す気か!》
 さっきまで聞いていた声が再び頭の中に響いた。
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」
 笑顔で淡々と語りかける。……こういう時のこいつの笑顔って見ていて寒気がする。
《一度ならずニ度までも! やはり人間は信用ならぬ!》
 声と共に青い竜が姿を現した。そーいえばさっき倒したのは青い虎だけだった。
「奇遇ですね。私もあなた達のような方々は信用しないことにしているんです」
《貴様……! もう生かしておけぬ!》
 今ので頭にきたんだろう。力強い咆哮と共に竜が襲いかかってきた。
「ノボル、結界をはれますか?」
「無理」
 さっきので力はぜんぶ使い果たした。そもそもここに来るのだってやっとだったし。
「情けないですねえ。仮にも私の弟子でしょう?」
「だったら師匠らしいことの一つぐらいやってみせろ!」
 ――なんて言ってもこいつのことだ。『そんなの自分でなんとかしなさい』とでも言われるんだろーな。そう思いながら文句を言うと意外な返事が返ってきた。
「……そうですね。たまには体を動かすのもいいでしょう」
 そう言いながら上着を脱ぎはじめる。
「見ていなさい。これが師匠というものです」
 上着をオレによこすと、そのまま竜に向かって歩き出した。
「おい、大丈夫――」
 オレの静止の声はこの場にいたもう一人の手によってさえぎられた。
「大丈夫。アルは強いよ。多分、ここにいる誰よりもね」
 そんなこと言っても、オレこいつが戦っているところなんてろくに見たことがないぞ?
「はじめましょうか」
 一方、その『強い』と言われた人物は笑顔のまま竜に向かって剣を構える。
《いい覚悟だ。一瞬で終わらせてくれる》
「それはどちらでしょうね」
 目を細めると片手をあげた。……もしかして術を使うつもりなのか?
「ダメだ! 術は――」
《無駄だ。我に術は――》
 期せずしてオレと竜の声が重なる。
 ズバッ!
「……え?」
 でも次の声をあげたのはオレだけだった。
《馬鹿な! 我に術は――》
「それはある程度のレベルでの話でしょう? あなたと私では実力が違うんです」
 そう言うと剣を握りなおし竜に向かって跳躍した。
「像は像らしくしていろ」
 笑顔のまま、でも目は笑っていない――剣を竜の背中につきたてる。
《――――!!》
 竜は、悲鳴をあげることなく一瞬にして崩れ去った。
「…………」
「終わりましたか。あっけないものですね」
 オレの手から上着をはぎとり何事もなかったかのように袖を通す。
「お前なー。オレの自信作どうしてくれるんだよ。もうボロボロじゃないか」
「あなたならすぐ作れるでしょう? かたいことは言わないでください」
 リザのセリフに苦笑する。でもオレはそんなことどうでもよかった。
「何ですか、その顔は」
「…………」
「呆けている暇があったら手伝いなさい。弱いなら弱いなりにもっと考えて行動しなさい。言ったでしょう? 時間の無駄遣いはごめんだと」
「…………」
 悔しいけど事実だった。
 さっきまでのオレは結界をはることしかできなかった。風の短剣だって椎名のほうがオレよりずっとうまく使いこなしいていたし。
 こいつ、本当に強かったんだ――。
「悔しかったら強くなりなさい。あなた自身の強さを見つけるんです」
「オレ自身の強さ?」
「少なくとも自分の身は自分で守れるようになりなさい。ああも簡単に短剣を使いこなされてしまっていては立場がないでしょう?」
「なっ!」
 こいつ、さっきのアレ見てたのか!?
「強くなりなさい。そうでないと身を滅ぼすことになりかねませんから。私のように、ね……」
 そう言って女性の彫像に向かって剣を振り下ろす。
 像はあっけなく壊れ、中から空色の球体がこぼれおちた。
「ごめんな。悪気はないんだ」
 リザが苦笑しながらオレの頭の上に手を置く。
「あいつがあんなこと言うなんて珍しいよ。きっと見ていられなかったんだろうな。昔の自分を見ているようで」
 そのまま髪をクシャクシャとなでつける。
「あいつって昔弱かったの?」
「いーや。今と同じくらい強かった。少なくとも外見上はね」
「…………」
 結局、何が何だかわからずじまいだった。気がついたら空都(クート)とは違う異世界にいて、女装させられて、椎名が危険な目にあって、極悪人が強くて――
 でも、一つだけわかったことがある。
「何ですか?」
 オレの視線に気づいたのか極悪人が怪訝な表情をする。
「……絶対、強くなってやる。なってアンタを見返してやる」
「せいぜい頑張ることですね。道のりは遠いですよ」
 あいわからず笑顔で、その真意はわからなかったけど――極悪人は――師匠はそう言った。

 こうしてオレ達は霧海(ムカイ)を後にした。
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