EVER GREEN

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第三章「海の惑星『霧海(ムカイ)』」

No,0 プロローグ

 久しぶりにお兄ちゃんに会った。
 お兄ちゃんはこの前会った時とちっとも変わってなかった。
「久しぶり。元気してたか?」
 そう言って、わたしの頭の上に手をポンと置く。
「もっちろん! お兄ちゃんも元気してた?」
「当たり前だろ? 可愛い妹に会うためにここまで来たんだから」
 心底嬉しそうな表情でそのまま頭をクシャクシャとなでる。
「ん? メガネなんかかけてたっけ?」
「うん。カリンくんに買ってもらったの」
「『カリンくん』?」
 ここで初めてお兄ちゃんが私の連れに目を向ける。
「ひさしぶり」
「はじめまして。リズさんのお兄さんですよね?」
 連れの二人がお兄ちゃんに挨拶。
「……妹はまだ嫁にはやらないからな」
 手はわたしの頭上に置いたまま、二人――特にカリンくんに鋭い視線を向ける。まったく。お兄ちゃんはどこまで本気なんだか。
「今日は一人で来たの?」
 頭に置かれていた手をどけて質問すると、
「いーや、一人じゃない。リズの会いたがってた人も来てるよ」
 思った通りの返事が返ってきた。
「ほんとに!?」
「オレが今までリズに嘘ついたことってある? ただし今回はおまけもついてるけど」
「おまけ?」
「百聞は一見にしかずだ。……ほら来た」
 ほんとだ。たくさんの人達がいる。女の子が一人に男の子が二人。そのうちの一人は眠ってる。のんきな人ね。
 会いたかった人――もう一人のお兄ちゃんが、わたしに向かって手をふった。周りはそれを見て不思議そうな顔をしている。だから、わたしも負けじと手をふりかえした。
「リズ、あんたの知り合い?」
 マリーナが不思議そうな顔をする。
「うん。わたしのお兄ちゃんなの」
「え? でもリズさんのお兄さんはあの方一人だけじゃ……」
 今度はカリンくん。
「うん。わたしのお兄ちゃんは一人だけ。でもあの人――アルもわたしの大切なお兄ちゃんなの」
 そのあと皆で自己紹介。
 お兄ちゃんとアル以外(わたしはちゃんと話せるけど)、言葉が通じないみたいだったからお互いとっても苦労した。
 アルと一緒に来た男の子と女の子は事態がまだ把握できてないみたい。話についていくのがやっとで目を白黒させてる。当たり前よね。急にこんな所に連れてこられたんだから。
 それでも、もう一人の男の子は眠ったまま。ほんとにのんきな人だな。
 変わった格好にカリンくんと同じ色の髪をしている。連れの男の子が剣をその子に突きつけようとするのを、女の子が慌てて止めていた。
「うーん。久々の我が故郷。ちっとも変わってないなあ」
 そんな状況をよそに、お兄ちゃんが大きくのびをする。
「それを言うならあなたもですよ」
 ほんと、アルの言うとおり。
「それで? 今日は用があって来たんでしょ?」
「さすがですね。とてもあなたの妹とは思えません」
 お兄ちゃんを見ながらアルがつぶやく。
「いいんだよ! オレの妹はこれで!」
 やっぱりお兄ちゃんはちっとも変わってなかった。
「あなたの力を貸してほしいんです」
 アルが、青い瞳をこっちに向ける。
「本来なら、あなたの手を煩わせることではないのでしょうが……」
 彼にしては珍しく謙虚。――それだけ、切羽詰ってるってことなのかな?
 だから、二つ返事で引き受けた。
「いいんですか?」
「だって、わたしにしかできないことなんでしょ? アルの頼みだもん、何だってきいちゃうよ」
 そう答えると、彼は苦笑しながら『ありがとう』と言った。
「……妹はまだ嫁にはやらないからな」
「まだそんなこと言ってるんですか。いい加減、妹離れしたらどうです?」
「そんなのオレの勝手だろ!
 そうだ、リズ。この子にも力を貸してほしいんだ」
 そう言って、お兄ちゃんがこの子――眠っている男の子を指差した。

 お兄ちゃんとアルは、このまま彼を置いていこうと言った。起こすのは気の毒だし、じきに目を覚ますはずだからって。でも目覚めて一人ぼっちだったらかわいそう――そう言ったら、カリンくんが残るって言ってくれた。カリンくんが残るなんて珍しい。自分と同じ色の髪だから気になるのかな?
 だから、わたし達はお兄ちゃんの言う通り一足先に出発することになった。

 おやすみなさい。カリンくんと同じ色の髪の男の子。目が覚めたらいっぱいいっぱいお話しよーね。
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