EVER GREEN

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第二章「わがままお嬢のお守り役」

No,2 お嬢救出劇

 改めて様子を見る。
 戦っているのは一人。さっきは男か女か迷ったけど、近くで見るとやっぱり女だ。
女にしては長身。長い髪に中性的な顔立ちだが、男にしては華奢すぎる。その女――オレと同じくらいか年上にみえる――は剣を構えている。
 それに対して相手は五人。全員がゴロツキと一目でわかるような容貌をしている。
 必死に応戦しているみたいだけど、どう見ても多勢に無勢。足元がふらついていて、このままだったら絶対危ないってのがオレでもわかった。
(どうします?)
 極悪人が小声で話しかけてくる。
(どうしますって、助けるしかないんじゃない?)
 極悪人に習い、こっちも小声で話す。
 できることなら避けたい。でも二人をここまで連れてきたのはオレだ。見て見ぬふりはできない。しかも苦戦しているのは女。ほっといたら寝覚めが悪いだろーし。
 助けるのはいいとして、問題はその方法だ。
 相手の数が多い。オレとアルベルトでなんとか食い止めるとして。女の方はシェリアに連れだしてもらうか? でもシェリアの方がオレより強いから逆のほうがいーかも――
「何のんきに話してるのよ! ほっといたら連れてかれるでしょ!」
(バカッ!)
 慌てて公女様の口をふさぐ。が、時すでに遅し。
「ん?」
 やばい。気付かれた。
(誰も助けないなんて言ってないだろ! どうやって助けるか考えてたんだ)
 今さらとは思いつつも、小声で答える。
(そうならそうともっと早く言ってよ!)
 そう言う前に大声あげたのはどこのどいつだよ!
「誰だ! そこにいるのは」
 しかも、完全に気付かれた。
(こうなったら取るべき手段は一つですね)
(何するつもりだよ)
(ノボル、おとりになって下さい)
 ……はい?
(おとりです。敵の注意をひきつけるんですよ)
 小声で、とんでもないことをにこやかに言う。
(アンタがやればいいだろ)
(あなたの方が見た目にも最適なんですよ)
(ノボル、頑張って!)
 いつの間にか、シェリアまで極悪人の味方をしてるし。
(人に頼るのは嫌じゃなかったっけ?)
(あれは自分の身は自分で守るって言いたかったの!)
「そこに隠れてる奴、出てきな。なに、大丈夫。手荒なことはしねぇから」
(むこうもああ言ってますし)
(そーいうのを言う奴に限ってろくなのがいないんだ!)
 第一、そのむこうの顔。どう見ても友好的とは思えない。
(大丈夫よ。後でちゃんと援護するから)
 人事だと思って!
(じゃあノボル、頑張ってください)
 ドカッ。
「うわっ!」
 そう言うなり、いきなり背中を蹴飛ばす。
「とっとっと……」
 転びそうになったけどかろうじてセーフ。目の前には……
「誰だテメェ?」
「こんな所に何しにきやがったんだ。あー?」
「女の声だと思ったが、あれはおめーか?」
 目の前には五人のゴロツキがいた。
「…………」
 オレ、一体何やってんだ?
 いきなり敵のど真ん中に来て、何やろうってんだ?
 からまれていた相手の方は、あまりの急な出来事にポカンとしている。そーだよな。普通はそうなるって。
「ど、どーもこんにちは」
 別に意識してるわけじゃないのに顔がヘラヘラしてくる。すっげー情けねー。
「まさかケンカを売りにきたんじゃねぇだろーな」
「こんなガキが?」
 ムカッ。
「お嬢さん、アンタの知り合いかい?」
 からまれていた相手――女子は、何を言うでもなくただ唇を固くむすんでいる。もしかして、恐怖で怯えてるのか?
「…………!」
 違う。そうじゃない。
 あの表情がそうとは思えない。あの目はまだあきらめていない。
「ボーヤは帰んな。テメェに用はねーんだよ」
「…………」
 ここで大きく深呼吸。落ち着け、落ち着くんだオレ。
「そ、そーいうわけにもいかねーんだ。こっちにも用があるし」
 できるだけ平静を装って答える。
「ほー。どんな?」
「どんなって……」
「ボーヤ、膝が震えてるぜ」
 ほっとけ!
「…………」
 だんだん、こっちに近づいてくる。あと少しだ。
「聞かせてもらおうじゃねーか。その用とやらを」
「聞かせてくれよ、お坊ちゃん」
 ゴロツキは相変わらず人をバカにしたような笑みを浮かべている。
 やっぱり。こいつら気付いてない。これなら何とかなるかも。
「用ってのは……」
 そう言って息を整える。
「用ってのは?」
「こーいうことだ!」
 相手の懐に思いっきり踏みこむ。
 ガッ!
 確かな手ごたえ。当たった!?
「ったく、あぶねーじゃねーか」
「ボーヤ、もっと頭を使おうな。これじゃ考えが見え見えなんだよ」
 確かに当たった。短剣の先はしっかり相手に捕まれている。
「それで? どんな用なのかなー?」
 相手は完全になめきってる。やっぱそううまくはいかないか。
「あはははは……」
 けどこれなら!
「スカイアいけっ!」
 ブワッ。
 あたり一面に風がわきおこる。
「なっ!」
 そこには緑色の少女が、風の武具精霊、スカイアの姿があった。

 スカイア。ショウからもらった短剣に宿った風の精霊。
 どーいうわけか、オレはこいつと話ができる。でもできるのは会話だけ。オレだけがこの短剣を使いこなせる、というわけではない。今だって、他の奴が使った方がオレの時よりも威力が何倍もあるって言われたし。
「どんな用かこれでわかった?」
 それでも時間稼ぎにはなってくれる。
「こいつらをできるだけ遠くに飛ばしてくれ!」
 ズザァッ!
 風が、緑色の刃に変わり、ゴロツキ達に襲いかかる。
「うわあっ!!」
 特に剣をつかんでいた奴はひとたまりもない。あっという間に遠くに飛ばされてしまった。でも致命傷を与えたわけじゃない。無傷ではないものの、全員立ち上がるだけの力は残っていたようだ。
「この野郎……」
 怒りの視線がこっちに集まりかけたその時、
 ザシュッ!
「!」
 シュッ!
「!?」
 カッ!
「何っ!?」
 背後を取られ、男達があっけなく倒れる。
「テメェ、いつの間に……」
 恨みがましく後ろを、剣を構えた女子を睨む。
 こいつは気付いてなかった。彼女が、オレが現れたときからずっと反撃の機会を狙っていたことに。
 三人は倒れた。残るはあと二人。
 背の高い方と小さい方。小さい方はさっきオレの短剣をつかんでいた奴だった。
「どーする? これで五分と五分だけど」
 声に怯えが含まれないよう、できるだけ平然とふるまう。
「ガキが。ちょっと油断してりゃあ調子にのりやがって」
 ゴロツキの一人、背の高い方がこっちを睨みつける。
「そのガキに油断してやられたのはどこのどいつだよ」
「! のガキぃ……!」
 挑発するつもりはなかったけど今ので完全にキレたらしい。懐からナイフらしきものを取り出す。
「このガキが!」
 げっ。突っ込んできた!
 逃げたくても足がすくんで動かない。
 オレ、ここで死ぬなんてやだぞ! 毎回言ってるけど!
「覚悟しやがれ!」
 ナイフの切っ先がふれようとしたその時、
「光よ!」
 あたりが急にまぶしくなった。
 きっと何かの術なんだろう。シェリアか?
 声の主の姿を確認しようとしたその時、
「!?」
 首を誰かに掴まれていた。

 視界が元に戻っていく。
 けどそこには誰もいなかった。
「な……」
 背の高い方が、辺りを見回す。
「どこを向いているんです? 敵はこちらにもいますよ」
「!」
 ドカッ。
「はい、おしまい」
 こうして四人目もあっけなく倒れた。
 そこには右手に剣を持つアルベルトの姿があった。ちなみに左手はオレの首ねっこをつかんでいたりする。
「もっと早く助けろよ!」
 首をつかまれたまま文句を言う。
 こっちは必死だったんだぞ! 死ぬかと思ったんだ。
「まあ、生きてるからいいじゃないですか。命の尊さがよくわかったでしょう?」
「んなことでわかりたくない!」
 これじゃ命がいくらあっても足りやしない。
「残りの一人は?」
「ああ。その人なら逃げていきました」
「いーのか!? 親玉とか連れてきたらどーするんだよ」
「その時はその時です。また叩きのめせばいいだけのことですから」
 微笑みをたやさぬまま、さらっとこともなげに答える。
 こいつ、やっぱり怖い。
 異世界に対してよりも、改めてこの極悪人に恐怖を覚えた一日だった。
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